欧州危機、悪循環の遮断を図った首脳会議の成果と問われるスピード感

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欧州債務危機が続く中、具体的な結果を強く期待されていた6月28、29日の欧州首脳会議。とりわけ注目されたユーロ圏首脳会合では統一した銀行監督システムを構築することで合意した。また、新たな監督システム設立を前提条件に、恒久的な安全網である欧州安定メカニズム(ESM)が銀行に対して直接資本注入ができるようになる。

日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部の植原行洋氏は「国の債務問題と銀行の不良債権問題を切り分け、直接注入の路を開いた合意は大きな進展」と評価する。

時限組織の欧州金融安定基金(EFSF)では、不良債権問題で銀行経営が悪化した場合、銀行ではなく国へ貸し付ける仕組みで、直接の資本注入は不可能だった。国を経由する仕組みだと、リーマンショック後の不況で厳しい経済状況に陥った重債務国の債務負担がさらに増える。結果、国の債務問題が懸念されて国債が売られ、今度は銀行が保有する国債に含み損が発生し、それがさらなる経営悪化の要因となってしまう。

EFSFから国を経由したる資金支援はこうした悪循環を生んでいたため、首脳会合の声明では、冒頭で「銀行と国家財政の悪循環を断ち切ることが重要」と強調した。

一方、首脳会合に先駆けてEUのファンロンパイ大統領は域内の金融面の統合に向けた銀行同盟の構築を提案している。同盟には単一の銀行監督のほかに、預金保険制度や破綻処理制度を設けることが中核的な要素。

「預金保険となると各国の拠出が必要で、おカネの話になる。今回はおカネが絡まない監督の部分でまず合意したとも見れる。銀行同盟で言えばまだ1つめ。第2、第3のステップがある」(大和総研・山崎加津子シニアエコノミスト)。銀行と国家財政の悪循環を断ち切る方針を打ち出したことは大きな成果だが、第一歩を踏み出したに過ぎないともいえる。

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