生活保護に厳格化の波、拙速改革の落とし穴

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これに対し、「自助」を前面に掲げ、受給要件をより厳格にする方向へと攻勢をかけるのが、自民党だ。

同党案は政府案とは異なり、給付水準について「10%削減」という具体的数値を掲げるほか、現金給付ではなく、生活用品や住居の現物給付を主張。また、保護期間中の勤労所得を管理し、保護脱却時の自立資金に充てる「凍結貯蓄」を提案。これは政府案の就労収入積立制度より強制色が強い。自民党の問題提起を受け、親族による扶養義務の強化は政府案の検討事項に盛り込まれた。

「給付水準が高いからモラルハザードが起こり、保護費の拡大につながっている」。同党のプロジェクトチーム座長を務める世耕議員はそう解説する。同議員の元には、生活保護費の水準の高さについて、有権者から“不公平感”の訴えが相次いでいるという。

実際、東京の生活保護費は標準3人世帯で住宅扶助も含め1カ月に約24万円。母子家庭では約26万円だ。他方、最低賃金で1日8時間、20日間働いても13万円強にしかならない。国民年金も満額で月約6万5000円。またデフレ下で給与所得者の平均給与が過去12年間で約15%減ったのに対し、保護費はほぼ同水準を維持している。これでは確かに不公平感は存在するだろう。

こうした批判に対し、制度見直しの慎重派は、前提となる認識の「ズレ」があると主張する。長く都内の福祉事務所に勤めた帝京平成大学の池谷秀登教授は、「最低賃金や国民年金が(最低限の生活を保障するには)低すぎることがむしろ問題で、別の議論が必要」と指摘する。

不公平感については、景気の影響が大きいとの見方もある。別の福祉事務所のOBは、「景気がいいときは国も自治体もおカネがあり、保護受給者は少ない。しかし景気が悪くなるとその逆で、世の中からバッシングの対象になるという状況が繰り返されてきた」と振り返る。


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