生活保護に厳格化の波、拙速改革の落とし穴
同様に「モラルハザード」にも認識の「ズレ」がある。
自民党は保護費拡大の背景には、景気低迷や高齢化だけでなく、モラルの問題があると強調。特に保護世帯のうち増加が目立つ、64歳以下の男性を含む「その他の世帯」に着目し、稼働年齢層の働く意欲の低下を指摘する。厚労省がリーマンショック後の09年12月、生活保護の申請があった場合に「速やかな保護決定」をするよう自治体に通知したことなどで、福祉事務所の認定基準が必要以上に緩和された結果、モラルハザードを助長していると主張する。
一方で、稼働年齢層のモラルハザードの広がりが、保護費増加に影響したかについては、厚労省は「信頼回復という面から対策は必要だが、保護費増加とは基本的には別問題」との立場。慎重派も「(保護費増加の原因は)あくまで景気悪化と高齢化」と主張する。
64歳以下の「その他の世帯」は稼働年齢層とされているが、約7割の世帯主は雇用状況が厳しい50歳以上とされる。単純にモラルハザードと片付けるのはあまりに乱暴だ。
もちろん、現行制度に見直す必要がないわけではない。生活保護費の約半分を占める医療費について、自己負担がないことが被保護者のモラルハザードにつながっているとの指摘は与野党問わず根強い。実際、医療費負担の抑制のために、政府、自民党ともに電子レセプトの活用など対策を打ち出している。
不幸なのは、統計データなど確認する手立てが存在せず、見直し推進派と慎重派の認識ギャップが埋まりにくい点にある。その間にも、自治体職員の親族による生活保護受給問題などが報じられ、現象としては部分的であっても、現行制度の不備ばかりがクローズアップされる。