大規模デモ勃発の中、大飯原発が再稼働、それでも脱原発へ「一歩前進」の評価も
矛盾に満ちた光景だった。13時間後に関西電力大飯原発(福井県おおい町)の再稼働立ち会いを控えた牧野聖修・経済産業省副大臣は7月1日朝、反原発を主張するソフトバンクの孫正義社長とともに京都市内にいた。
7月1日はくしくも、原子力エネルギー依存脱却への機運が高まり作られた「再生エネルギー固定価格買い取り制度」導入の初日。牧野副大臣は再稼働への同意を得るために滋賀県、京都府を行脚するなど再稼働を推進してきた人物だが、この日は朝8時過ぎから行われたソフトバンクの太陽光発電所(京都市伏見区)の運転開始の式典に列席。「孫社長の積年の努力で出来上がった。新しいビジネスモデルを作り出し異業種参入などで活性化してほしい」と祝辞を述べた。
式典では孫社長や稲盛和夫・京セラ名誉会長などとともに、運転開始のスイッチを満面の笑みでタッチ。直後、孫社長が広大な敷地に敷き詰められた太陽光発電のパネルを眺めながら「(この日が迎えられて)よかったですね」と話しかけると笑顔で応えた。
しかしこの後、牧野副大臣は道路を封鎖する市民を避けるため船で大飯原発へと移動。夜9時には核分裂反応を抑えていた「制御棒」引き抜きに立ち会い、大飯原発3号機は再び動き出した。大惨事を教訓に1歩進んだ直後、2歩も3歩も後退したようにもみえる。
放射性廃棄物の処理問題など、全原発に共通する課題以外にも、大飯原発には安全性にいくつもの疑問符がついている。まず、経済産業省が原発事故後に提示した安全対策は今後数年間かけて行われるものもあり、7月1日の時点では安全対策は未完だ。ストレステストもより重要だとされる2次評価は行われなかった。さらに、原発直下に活断層がある可能性があるという指摘もある。
再稼働直前に全国各地で大規模デモ
この大飯原発再稼働の「見切り発車」は下火になっていた反原発運動に火を付けた。再稼働を目前に控えた6月29日から7月1日にかけ各地で抗議行動が行われた。29日昼には福島の女性市民団体を中心に国会前でデモを実施。同日夜には首相官邸前で15万人規模(主催者発表、警察発表で約1万7000人)の大規模デモが勃発。平日の夜にもかかわらず、北海道や愛媛など遠方からの参加者も多数おり、「再稼働反対」、「野田やめろ」などと2時間にわたって声を張り上げた。同時に関西電力本店(大阪市北区)の前でも抗議デモが発生した。
■国会前で抗議行動をする女性市民団体(6月29日午後4時頃)
■新宿アルタ前のデモの様子(7月1日夜7時頃)