“独走”トヨタ−− 拡大するBRICs市場攻略の成算
国内や米国の自動車市場は飽和状態で成長に限界が見え始めた。トヨタはロシアやインド、中国など膨張する新興国に活路を見いだす。そこで待ち受ける課題とは。
2007年12月。トヨタ自動車は世界を動かす超大国を相手に、重要な役回りを演じていた。
一つはロシアだ。舞台は220億円を投資し、同21日に稼働したばかりのサンクトペテルブルク工場。トヨタの渡辺捷昭社長と奥田碩相談役が、プーチン大統領の工場視察に同行した。「奥田プロジェクト」--。業界筋がそう呼ぶほど、トヨタはトップダウンで現地生産拠点の確立に力を入れてきた。そして早くも、第2工場の建設を表明した。
もう一つは中国である。福田康夫首相の初訪中に合わせた29日に、渡辺・奥田の“2トップ”が首相らを自社の天津工場に案内。ようやく薄日の差した日中関係をより強固なものにするため、両国友好の橋渡し役を十分アピールした格好だ。
くしくもサンクトペテルブルク市はプーチン大統領、天津市は温家宝首相の地元である。両大国ともに、ことトヨタ進出に関しては国家を挙げての歓迎ぶり。また、奥田氏が内閣特別顧問に就任したこともあり、今や日本は政治も経済もトヨタに頼り切っている。
もっともトヨタがビジネス抜きで首脳外交を補佐するはずはない。
「BRICsへの対応など業界は大きな転換点にある」。年末の会見で、渡辺社長はそう言い切った。08年の世界販売計画では前年比5%増の985万台と設定。米ゼネラル・モーターズ(GM)との世界一争いに決着をつけ、09年には1040万台と前人未踏の領域に挑む。ただ、トヨタ自身は競争の中身が“変質”していることを、とうに自覚している。
早くも激化の価格競争 出遅れ巻き返しに焦る
同計画によると国内販売(単体)は160万台と横ばい、米国向けは1%増の264万台と控えめの見通し。対照的に、猛烈に伸びると見込むのが新興国向けだ。03年から07年にかけての販売実績は、中国が10万台から49万台、ロシアが2・6万台から16万台へと膨張している。
07年の市場規模は中国が960万台で、米国に次ぐ世界第2位。ロシアは300万台で早くも5位だ。ブラジル(280万台)とインド(210万台)を含め、BRICs4カ国はすべてベスト10に入る。(自動車調査機関フォーイン調べ)。高い成長率と低い自動車普及率を考慮すれば、のりしろはまだ大きい。
広大な市場が広がるBRICs。トヨタは中国で生産・販売にわたる物量作戦を駆使し、何とか上位4強に食い込んだ。が、そもそも各国は、モータリゼーションの進展度合いがバラバラ。攻略は簡単でない。
目下、トヨタが後塵を拝している市場はインドとブラジルだ。シェアはともに3%前後にすぎない。
インドは価格戦争が激化している。1月9日に公開されたデリー・モーターショーでは最大財閥の印タタが「1(ワン)ラックカー」と称される約30万円の超低価格車を発表。タタは財閥内に鉄鋼メーカーも抱え、調達面などでコスト競争力が強い。1980年代に進出したスズキも、低価格車を武器に5割のシェアを誇る。
出遅れたトヨタは社内で「EFC(エントリー・ファミリー・カー)」と呼ぶ7000ドル程度の新型車で巻き返しを図るもくろみ。詳細は未定ながら10年には投入予定で、「試作車に乗ったが改善余地がある」(渡辺社長)段階という。市場投入するとなれば、日本の規格にない800ccの1ラックカーが陣取る最廉価帯でなく、1000cc前後のハッチバック車が想定される。が、「スズキだからこの品質とコスト、というのがある。そこまでトヨタさんがレベルを落とせるんですか」(大手自動車幹部)との見方もあり、厳しい競争を迫られよう。
さらにブラジルはフレックス・フューエル車(ガソリン+エタノール)が普及する特殊な市場。トヨタはここでの明確な戦略を描き切れていないのが実情である。
一方、ロシアでは開拓に本腰を入れる。ここでは値の張る中型セダンが売れ筋で、再国営化された地元の露アフトワズが「ラダー」で独走してきた。ただ、車の型も技術も古いアフトワズは仏ルノーと電撃提携したばかりで、外資はほぼ横一線と言っていい。ボリュームを取りにいきたいトヨタにとって有利なのは、大型車からコンパクトカーまでフルラインをそろえていること。日系メーカーでは現地生産一番乗りで、巻き返せるチャンスは残っている。
今は営業利益の8割をたたき出す日米市場だが、いずれ世界の全方位に神経を配らねば立ち行かなくなる。「エントリークラスで囲い込み、中上級車にシフトするのがトヨタの戦略」(日興シティグループ証券の松島憲之氏)。1台当たりコストを引き下げたうえで、いかに国ごとの規制や嗜好をとらえたクルマを打ち出せるか。まったく新しいステージでトヨタの真価が問われる。
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