自衛隊に迫る真の危機、誰が日本を守るのか 元隊員が明かす、内側から見た最大の懸念

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それがさらに悪化した部隊では「ここにいたら過労死する」と、どんどん隊員が辞めていき、業務が回せない状況になることもありました。いわゆる学級崩壊のような状況が自衛隊内で起こりつつあるのです。自衛隊では、年間70人前後の自殺者が出ているという話を聞きます。戦争もしてないのに毎年1つの小さな部隊が全滅していることになり、とても大きな問題です。

即応予備自衛官へのメンタルケア不足

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東日本大震災でも活躍した補給艦「おおすみ」

前述した即応予備自衛官にも、メンタルヘルスの問題があります。即応予備自衛官は2011年の東日本大震災で初めて招集され、災害派遣に参加しましたが、そこには大きな落とし穴がありました。

現地での負傷については、常備自衛官と同様の保険を適応しましたが、このような大規模災害の支援者に起こりうる、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に関しては、まったく手立てをしていなかったのです。

常備自衛官に対しては、メンタルヘルスに関して派遣前後の教育やその後のケアは臨床心理士等の任務として行われていました。派遣が決まってすぐ、非常勤自衛官の経験がある筆者は、非常勤自衛官の保険適用について上層部に聞きました。

返ってきた答えは、「そこまでは考える余地がない」というものでした。上層部には問題提起していましたが、実際、筆者の下には、非常勤自衛官が災害派遣後、様子がおかしくなって困っているという家族から相談があったのです。これに対しては、保険の適用も自衛隊の保証も何もなく、非常勤自衛官が自分で戦わなければならない状況となっていました。

余談となりますが、定員充足率が93%と高い幹部自衛官ですが、現場からは「指揮官として優秀な人は少ない」という指摘が聞こえてきます。隊員の中では「あの指揮官がいたら、有事に自分たちの部隊は全滅してしまう」という話題がよくなされます。

読者の皆さんは、これを知って驚いたかもしれませんが、実際、訓練中に幹部自衛官が背後から部下に刺される事件も起こっています。中には、「俺の保身のために、この事件はなかったものとする」と傷害事件をもみ消すケースまであります。

自衛隊には有事の際だけでなく、地震や土砂崩れ、大洪水などの大規模災害時に最前線で国民を守る役割があります。しかし、安保法の施行を前に自衛隊の内部はたくさんの問題を抱えています。いざというときに誰が日本を守るのか。心配になるのは元自衛官の筆者だけではないはずです。

玉川 真里 元自衛隊の臨床心理士/NPO法人ハートシーズ理事長

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たまがわ まり / Mari Tamagawa

1973年岡山県生まれ。アルコール依存症の父と、自殺未遂をする母のもと育つ。自分の身を守る強さを求め、1991年に陸上自衛隊に入隊。所属駐屯地では、女性初の大砲部隊野外通信手として活躍する。2008年、陸上自衛隊において現場初の臨床心理士として、最も自殺率の高い職業といわれる自衛隊の自殺予防対策を任される。自らのうつ病体験・精神科閉鎖病棟への入院経験から医師・管理職・家族が同じ目標で本人に関われる復職支援検討会を提唱しコーディネーターとして入ることにより部内外の精神科医からも、この人に任せたらほとんどの患者が復職を成功させると言われるほどの信頼を得る。より多くの人の心を救済したいとの思いから自衛隊を辞め、資産をすべて投入してNPO法人設立。複雑な生育歴やDV、自殺未遂、離婚、結婚詐欺被害などの実体験をもとにし、当事者の辛さをわかりやすく説明し、どのようにすればお互いが苦しくなく関われるか具体的な方法を提示。著書に『もう「あの人」のことで悩むのはやめる』(サンマーク出版、2015年11月発行)

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