■合理的なProcess設計はPersonの提供価値と合致して意味を為す
この類の施策の問題点は、一旦、カードなりバンドなりを着けた顧客には販売員は絶対に声をかけられなくなることだ。また、顧客も着けた以上は、と、途中で意思表示を変える機会を逸する。買い物中のふとした疑問や、「もうちょっと背中を押して欲しい」というキモチの萌芽をスポイルしてしまう。意思表示も含めたセルフ化は万能解ではない。
消費が高度化し、消費者が「買わない自由」を手に入れたバブル崩壊以後、商品・サービスの販売はいわゆる「4P」だけでは完結することができず、さらに「2つのP」を加えて考えることが求められるようになってきた。即ち、「Process」と「Person」。「どのような提供手段で」「誰が提供するのか」だ。Processは「しくみ・マニュアル」など、Personは「社員・アルバイトなど顧客と接する担当者」を意味する。
CLINIQUEのリストバンド施策は、合理的なProcess設計がなされているのだとは思う。ただ、4Pとの整合や、個々の担当者(Person)が、これをどのように活かしていくかが合わせて考えられていなければ、せっかくの施策も単に機会損失に終わってしまう可能性が高い。販売員からの説明の煩わしさが減ることイコール購買につながることではないからだ。
例えば商品そのもの(Product)に十分な魅力があり、販売員からのコミュニケーション抜きにも伝わる施策、例えば広告宣伝など顧客が店に足を運ぶ前段階で十分に情報を得られる手段は確保されているか、店頭で自由に買いまわる際に商品理解できるボードなどは完備しているか(Promotion)。また、渋谷ヒカリエは、販売員からの説明を煩わしく感じる顧客層の購買チャネル(Place)であるのか--。
もっと言うなら、百貨店も、化粧品販売も、「販売担当者とその提供するサービス」は、商品(Product)の1つであると筆者は考えている。別の言い方をすれば、商品の価格(Price)には販売担当者が提供するサービスの価値も織り込まれているということである。販売員からの説明もPromotion機会だし、これも含めてのチャネル(Place)設計だろう。そう考えると、やはり、しっかり接客するなり、そっとしておくなりという見極めをするのは、販売担当者の責任、と思えなくもない。
・・・と、やや批判的に書いてしまったが、正直に言えば、筆者自身、オシャレな店頭、オシャレな店員を前に、ちょっとした緊張に見舞われるクチではある。なので、わざわざ口にせずとも「そっとしておいてください」と意思表示できる選択肢が増えたのは、有難いことではある。ただ一方で、そこで販売員が全ての判断を顧客側に委ね、気を抜いてしまうとしたらちょっと心配だな、と老婆心に駆られていたりするのである。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら