開発・投資・取締役会まで参加──新興スマホメーカーNothingが選んだ異例の成長戦略とは
特にデザイン面では、かなり特徴的なものを作っている。単に外装を特殊なものにするだけでなく、OSを含めたソフトウェア面で工夫を重ね、Androidをベースとしたスマホであり、操作の面でAndroidのルールから大きく逸脱しない状態を維持しつつ、フォントやアイコン、色合いなど多くの部分で独自性を出せるようになっている。現在はAIにも注力しているが、単にGoogleのGeminiを搭載するのではなく、「Essential Space」というアプリを作るなど、独自の要素を追求している。
ではその中で「コミュニティ」とはどのような価値を持つのか?
メーカーは基本的に、自ら製品を作る。アイデアの多くはメーカーによるものであり、その点はNothingも同様だ。
とはいうものの、多くの企業は消費者との関係を「宣伝」であり「サポート」と考える。彼らの声は重要だが、消費者との関係には距離がある。オンラインにユーザー同士のフォーラムを開設している企業は多いが、そこでのコミュニケーションは、どうしても一方的なものになりやすい。
しかし、Nothingの場合には、その距離をより近いものにしようとしている。
Nothing・黒住氏は、「自分たちが良いと思うものを、同じように良いと思ってくれる人は意味がある存在である、という性善説に基づいた部分がある」と話す。
その中では、「ここがいい」と評価する声だけを求めているわけではない。「辛辣なフィードバックこそ求めている」と黒住氏は言う。
同社は今年、同社製スマホ向けのOS「Nothing OS 4.0」を公開した。今年前半に発表された際、同OSはAI機能を含め、大幅なアップデートがあると発表されていた。
しかし、実際にはユーザー側はそこまで大きな変化とは捉えられなかったようだ。テスト版公開の段階では、「なにも変わっていない」「期待と違う」という不評がコミュニティにあふれた。
その中でNothingは「透明性を持って説明しよう」と決めたという。事前の説明が強すぎる期待を招いたとしたら謝る、とした上で、段階的に改善を加えていくことを直接コミュニティへ説明し、改善を進めている最中だ。
AI時代にこそ重要なコミュニティ
同社がコミュニティを重視する背景には、製品の性質を決める軸が「ソフト」にある、ということも大きな要因だ。
スマホにおいて、ハードの設計や優れた部材の調達は重要だ。ただ、ハードの設計は修正が効きづらく、後戻りが難しい。
一方で、ソフトは修正が効きやすい。基本設計は大事だが、その先で意見を聞きつつデザインや機能を変えていくことは、ハードウェアよりずっと容易だ。意見をくみ取ってすばやくソフトを改善できる体制を整えていることは、顧客満足度の向上につながる。
黒住氏は「AIの時代には、コミュニティとの連携がより重要になる」と指摘する。社内の限られた発想だけで開発するのではなく、社外にある多様な知性を活用することが「大きな変化に対応するアドバンテージになる」(黒住氏)という考え方だ。別の言い方をすれば、ソフトはユーザーに対する「ラストワンマイル」(黒住氏)であり、その部分をコミュニティとともに磨き上げることは、メーカーとしての差別化につながるわけだ。
「より大きなメーカーになったとき、この体制が維持できるかはわからない」と黒住氏はいう。
「だが、コミュニティとの距離感を維持できると信じていないと、その場所には到達できない。ユーザーの不満に対して答え続け、民主化していくことは、我々が存続しうるための道のりである、と信じている」(黒住氏)
同社は現在、スマホとその周辺機器を中心にビジネスをしている。だが、現在「AIネイティブなデバイス」を開発中であり、2026年には発表される予定だという。こうしたデバイスでなにができるのか、どういう世界が示されるのかは見えていない。しかし、そこでも「なにがしたいか」「どういうものを求めるのか」ということをコミュニティからフィードバックしながら続けることには大きな意味がある。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら


















無料会員登録はこちら
ログインはこちら