"18年ぶり内部昇格"新会長が《NHK衰退》を加速させる? 肝いり「NHK ONE」想定外の欠陥が招く致命傷の必然
同時に、NHKはネット利用者との重要な接点を失った。これらのサイトは受信料契約の枠の外に置き、NHKの価値を伝える重要な懸け橋にすべきだった。「こんな情報を届けるNHKなら番組も見てみようか」と思ってくれれば、ネットだけの受信料契約の入り口になる可能性があった。
その意味ではむしろ、こうしたサイトは増やすべきであり、閉鎖するのは愚の骨頂だった。だが、24年5月に成立した改正放送法において、今年10月以降、番組に直接関連しないネット上の情報は「許されない存在」になった。
これに輪をかけるのが「NHK ONE」の閉鎖的な運用だ。ネットで試しに利用してみたい人々をシャットアウトし、受信料を払わないと一切見られない世界にしてしまった。
NHKがネットで自分たちの客を奪うと新聞協会は憂慮しているのだが、NHKは業界内の声を優先し、ネットで国民に情報を届ける使命を二の次にしている。その発端をたどれば、井上氏がネット展開を「放送と同一」に押し込んでしまったことにぶち当たる。新聞協会と議論を戦わせてでも公共放送の価値をネットに拡張する努力を放棄した、と言わざるをえない。
改めて問われる「公共メディア」のあり方
NHKは15年から「公共メディア」という言葉を使うようになり、18〜20年度の経営計画の冒頭では「公共メディア実現へ」と高らかにうたった。ネットでも公共的な役割を果たすという趣旨の宣言だ。
ところが、24〜26年度の経営計画では、なぜか「公共放送(メディア)」と後退した表現になっている。稲葉延雄会長、井上樹彦副会長の現体制では「やっぱりNHKは放送メインです」と言っているも同然だ。
この体制のもとでスタートした「NHK ONE」は、必須業務とは名ばかりの、放送の「補完業務」になってしまった。必須業務化実現のために業界団体の顔色を最優先し、NHKのあり方を逆戻りさせたのだ。政治部出身の井上氏が“業界内政治”に血道を上げた結果、自らの首を絞めてしまった感すらある。
NHKはただでさえ受信料収入の減少にあえいでいる。本来はこのタイミングで、NHKのあり方を根本的に見直す問題提起を自ら行い、何年もかけて「公共メディア」の定義を国民と共に作り上げるべきだ。
情報健全性が問われ、災害が次々に起きる今はそのチャンスのはず。だが、今の上層部は「放送の価値」にしがみつき、そこから離れそうにない。NHKの現場で働く多くの知人を持つ筆者としては、手遅れにならないことを祈るしかない。
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