金融機関が富裕層に売りまくっていた『仕組債』の知られざる"カラクリ"とは? 現役プライベートバンカーがかつて法人相手に行った販売法を「懺悔」

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このスキームの場合、投資家から見たメリットとデメリットは以下のようになります。

メリットは、一般の債券ではあり得ない高い利息を得られることです。

一方のデメリットは、償還が現金ではなく、株式でなされる可能性があり、株式で償還された場合には大幅な含み損を抱えている可能性が高いことです。

また、ノックアウト価格を上回って途中で償還した場合にも、ノックアウト価格以上の株価上昇の旨みを放棄したことになります。

さらに、EB債は通常、途中売却ができません。万が一、参照している銘柄に悪材料が出て暴落するような事態になっても、売ることができず、投資家は価値が下がっていくのを指をくわえて見ていることしかできません。

投資家にとって最良の結果となるのは、高い利率を維持したまま、当初の予定どおりの償還日に現金で償還されるケースです。この場合、参照した銘柄の株価はあまり上がりも下がりもせず、一定の範囲内で推移したことになります。

売っている担当者が手数料の割合を知らないケースも

金融機関は仕組債、特にEB債について「市場が安定していれば有利な商品です」「リスクは低めに抑えています」と説明することがあります。しかし、投資家からすると流動性が低く、リスクとリターンが見合わない商品と言えるでしょう。

一方、金融機関側には旨みが大きい商品で、商品を組成する証券会社と、それを販売する銀行や証券会社の双方が手数料を獲得できます。

一般的には5~6%程度、なかには10%近くも手数料をとられる場合がありますから、「額面100で買った債券」が、実は「市場価値90+手数料10」だったりするのです。

投資家からは、通常その内訳は見えません。営業担当者ですら、組成段階の手数料や自社のとり分を正確に把握していないケースが多く、質問しても明確な回答は得られないでしょう。

金融庁が2022年5月に公表した資料にもEB債についての記載があります。そこでは、2019年4月に個人向けに販売されたEB債856本を調査した結果、平均リターン3.2%、標準偏差15.1%、最大リターン32.3%、最大損失84.2%であったとされています。

この結果を踏まえて、金融庁は「EB債のリターンはリスクに見合うほど高いとは言えず、株式に代えてEB債を購入する意義はほとんどないと考えられる」と厳しく指摘しています。

また、ノックアウト価格にヒットして早期償還した場合に、強引な勧誘によって新たなEB債の購入へ誘導するケースも多く報告されていたとのことで、「金融機関にとって手数料を稼ぐ有力な手段となっている」と看破しました。

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