「パワハラ容認世代」と「残業キャンセル界隈の部下」に挟まれる氷河期世代48歳課長の"地獄"
ならば、せめて権限を渡してほしい。課長はそう思った。事業計画を作るなら、予算の決定権が必要だ。取引先とのトラブルを解決するなら、製造部門との連携が必要だ。
しかし、部長は権限を渡さない。
「そこは俺に任せろ」
これでは、責任だけ背負わされて、手足を縛られているようなものだ。
さらに困るのは、リソースの問題である。課長の課は慢性的に人手不足だ。繁忙期にはほかの課から人を借りたい。しかし、部長に相談しても「ムリだ」の一言で片付けられる。
「ほかの課も忙しいんだ。自分たちでなんとかしろ」
責任は押し付ける。権限は渡さない。リソースも与えない。これでは仕事が回るはずがない。
「三面等価の法則」が崩壊している
ここで、仕事の基本原則を確認しておこう。「三面等価の法則」である。
仕事には、必ず責任と権限と義務が同じ分だけある、という法則だ。
(2)権限:職務をまっとうするためにリソースを活用する権利
(3)義務:仕事の進捗状況を報告・説明する義務
この3つは常にセットである。責任を負わせるなら、それに見合った権限を与えなければならない。権限を与えたなら、報告の義務を課さなければならない。これが崩れると、組織は機能不全に陥る。
この課長のケースでは、部長が「責任」だけを押し付け、「権限」を渡していない。そして部長に任せたことは、何の報告もされない。三面等価の法則が完全に崩壊しているのだ。
上からの圧力だけでも大変なのに、課長には下からの問題もある。
課長の下には5人の部下がいる。20代から30代がメインだ。彼らの多くが、いわゆる「残業キャンセル界隈(かいわい)」に属している。
残業キャンセルとは、SNSを中心に広がっている風潮だ。定時になったら仕事が終わっていなくても帰る。残業を「キャンセル」するのだ。
ある日、課長は部下にこう言われた。
「仕事は終わっていませんが、定時なので帰ります」
課長は耳を疑った。
「え? この資料、明日の朝イチで必要なんだけど」
「すみません。定時なので」
部下は悪びれる様子もなく、カバンを持って帰っていった。



















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