戸外に人の気配を感じた。何者かが、草を分けてこちらへ近づいてくる。やはりタイソン二世が、わたしを仕留めるために追ってきたのだ。奈央はスコップの柄を強く握り締める。
戸外の足音は、物置小屋の手前で止まった。物置小屋の周囲を、獲物を物色するかのようにゆっくりと歩く音がする。タイソン二世の荒い鼻息が、小屋の中にまで聞こえてくる。一方で奈央は息を殺す。奥歯を強く噛んで、どうにか歯音を止める。
タイソン二世の頭部を狙って…
足音は、物置小屋の出入口で止まった。
地べたに人の形をした影が伸びている。
小屋へ入ってきたタイソン二世をスコップで殴って、住宅街へ逃げてどこの家でもいいから助けを求める。わたしにそんなことできるだろうか。勉強も運動も苦手で、得意なことは何もなくて、体育マットにくるまれてビンタされて泣きべそかくようなわたしに、そんなことできるだろうか……。
人影は、ぬるりと小屋の中へ入ってきた。
その影へ向かって、思い切りスコップを振り下ろす。
スコップは影の頭部へ命中し、驚くほど簡単に小屋の反対側へ吹っ飛んだ。スコップを放り投げると、すかさず小屋の外へ逃げる。
次の瞬間、奈央はすさまじい力で地面へ引き倒された。
目の前にタイソン二世の顔がある。じゃあ、わたしが小屋の中で殴ったのは誰──? 小屋の中を一瞬見る。そこには顔にへのへのもへじが描かれた、カカシが倒れていた。
タイソン二世は奈央に馬乗りになり、片腕で身体を押さえつけた。豊田とはまるで違う、大人の男の圧倒的な力だった。
それでも奈央はいつかと同じように、下からタイソン二世の頬を平手で打った。タイソン二世の頭部は微動だにしない。
力を込めて、両手でタイソン二世の首根を後方へ押す。すると奈央の手の平はずるりと滑った。タイソン二世の顔の皮が、ずるずると剥けていく。



















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