と、背後で人間の足音が聞こえた。
一定の距離を保って歩く、誰かがいる。
わたしを殺そうとする男
奈央は歩きながら、ちらりと後ろを見る。十メートルほど後方に、背広を着た、体格の良い、しかし背は低い、パンチパーマのような髪の、三十代か四十代くらいの男がいた。奈央は直感する。彼がタイソン二世だ。
背広の男は、やはり一定の距離を保って奈央の後をつけている。鼓動が高鳴る。彼がわたしを殺す? どんな方法で?
そこで万次郎のよく分からない文言を思い出す。工作部の三四郎君の秘密道具──、イケナイバレット──。
緩やかなカーブへ差し掛かる。頭上では街路灯が点滅を繰り返している。その明かりの周囲を、数匹の蛾が飛び交っていた。
蛾は蛍光灯に体をぶつけ、その度に軽やかな音が響く。
足音が消えていることに気づく。ほとんど無意識に振り返って背後を見る。
タイソン二世は道路の真ん中で、右手をこちらへまっすぐ伸ばしていた。
その右手が、闇の中で鉛色に鈍く光る。
拳銃だ。
その拳銃を見た瞬間、奈央は動物的な本能で竹藪の中へ飛び込んだ。
甲高い音を響かせて竹が割れた。弾丸ではない。振り返ると、竹の幹には錆色の鉄の杭が刺さっていた。
もし避けなかったら、あの鉄の杭が自分の後頭部に突き刺さっていたかもしれない。
彼は本当に、わたしを殺す気なのだ。
奈央は地面に手をついて立ち上がると、竹藪の奥へと駆けた。
背後から足音が聞こえてくる。もう一定の距離を保ってはいない。むしろ距離を詰めようとしている。地面を踏みしめる音、枯れ枝を砕く音、荒い息遣い──。



















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