山奥の「ミシュラン店」築いた女将の半生と「母みたいにならない」と家を出た娘が選んだ継承→時流に合わせた"経営改革"で昔話の世界を未来へ
節子さんは自身が長年体感した大きな負担や苦労を案じていた。子どもの頃「母のようになりたくない」と思っていた亜希子さんは、節子さんと同じ道を辿ろうとしている。それでもやると覚悟を決めた理由は、節子さんが築いたみたき園唯一無二の価値だった。
亜希子さんは自宅のある鳥取市内から、1時間かけてみたき園に通い続けた。厨房に入るたび節子さんに揺るぎない思いを伝え続けた。1年後、節子さんは亜希子さんの熱意を受け入れた。
捨てられていたミシュランからのハガキ
「このハガキなに?」
2018年の秋、みたき園に遊びにきていた亜希子さんの長女が、ゴミ箱に見慣れないハガキを見つけた。拾って亜希子さんに尋ねた。内容を読んだ亜希子さんは目を丸くする。このハガキは「ミシュランガイド京都・大阪+鳥取 2019」に選出されたことのお知らせとその表彰式への招待状だったのだ。
「おもてなし」に徹する節子さんの経営哲学が息づくみたき園が、里山の名店としてのブランド力を持ち、確固たる地位を築き上げた。
「女将さんは、第三者からの評価にいっさい関心がないんですよ(笑)。ずっとお客様だけを見て、おもてなしひとすじ。でも私は、女将さんたちが心をこめて丁寧に料理を作ってきたこと、お客様がずっと支持してくださったことが世界から評価されたことが純粋にうれしかったです」
ミシュランビブグルマン獲得を、常連客も自分のことのように喜び、節子さんに祝福とねぎらいの声がたくさん届いたという。
しかし、この「おもてなしひとすじ」のスタイルは、女将である節子さんの、休みなく献身的に働き続ける姿勢によって支えられてきた。だからこそ若女将・亜希子さんは、節子さんが積み上げてきた日々を認めながらも、次世代へ継承するためには自身や従業員を含めた誰もが幸せになれる「持続可能な働き方」が必要だと感じていた。
そこで亜希子さんは、ひとつ、大きな決意をする。冬季休業以外の4月〜11月はずっと休みなく営業していたのを、2020年から週休2日を導入したのだ。客がいつ来ても営業していたみたき園にとって、大きな変革である。
2023年には食洗機も取り入れ、料理や仕込み、おもてなしなどに、より時間を掛けられるようになった。掃除は、今でも営業日には毎回畳や板間を雑巾で拭き、ほうきで掃いているが、お掃除ロボットに手伝ってもらうこともある。
「お客様だけでなく従業員を含めたみんなが幸せになれる場所を作りたいんです。それが実現できてはじめて、かけがえのない場所になるはず」



















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