存立危機事態問題で露呈した「自民党外交」の劣化、日中外交"チキンレース"終息のカギは《過去》にある
ただ、第三者が「言うだけ」ならタダだ。同情はしてくれても、日本の将来に責任を持ってくれるわけではない。
そもそも、国家の外交は「大人のやり方」で行うものだ。改憲主義者で自主防衛論者だった中曽根康弘元首相が首相に就任して最初の外遊先に選んだのは、意外にも韓国だった。第1次政権時の安倍元首相も、初の外遊先は韓国だった。その前月に小泉純一郎元首相が、現職の首相として21年ぶりに靖国神社に参拝しており、安倍元首相の外遊は悪化した対日感情を緩和させる目的もあった。
党外交の効果も無視できない。12年4月の尖閣諸島国有化や13年12月の安倍首相(当時)の靖国参拝で悪化した日中関係が改善の方向に転じたのは、15年5月の二階訪中団だった。二階俊博総務会長(当時)は3000人を引き連れ、人民大会堂で習近平国家主席と面会した。
政府とはルートが異なる党外交は「人間同士の信頼」に基づくものだが、二階氏は昨年政界を引退。日中国交回復に重要な役割を果たし、太いパイプを持つ公明党は、今年10月に自民党との連立を解消している。
そして現在の自民党では、外交部会と外交調査会が薛総領事にペルソナ・ノン・グラータ(その国に駐在する外交官として入国できない者や、外交使節団から離任する義務を負った者を指す外交用語)を行使すべきとした批難決議を官邸に提出するなど、「国内向け」のアピールが目立つ。
中国政府は日本への渡航自粛を呼びかけるなど、徐々に経済的な締め付けを行いつつある。19日には日本からの水産物輸入停止を表明した。一気に報復手段が拡大されれば、日本経済は大きな痛手を負いかねない。
「中国は巧妙だ。汚れ役は総領事に任せ、呉江浩大使にはやらせない」と、ある外交関係者は語ったが、そうした現実こそ中国が本気だという証左だろう。
勇ましさだけでは国益につながらない
何よりも問題なのは、こうした高度に政治的な内容について、高市首相が“個人的”に答弁したことだろう。高市首相に好意的な産経新聞でさえ、11月18日に配信した「高市首相の『存立危機事態』発言 台湾侵攻抑止へ『正論』も、準備不足は否めず」の中で「政府内で準備を重ねて答弁したというよりは、国会論戦の売り言葉に買い言葉で本音を漏らしてしまったという実態」を指摘した。
勇ましさだけでは国益につながらないのは、1933年2月に国際連盟からの脱退を表明した例でも明らかだ。その後に日本が敗戦へと突き進んだ道を考えれば、国際社会からの離脱は賢明な選択だったのか。
高市首相は10月21日の首相就任から1カ月足らずの間に、来日したドナルド・トランプ大統領の接遇を成功させ、ASEAN(東南アジア諸国連合)やAPEC(アジア太平洋経済協力)の首脳会議でもその外交力を発揮した。その手腕に寄せる国民の期待は非常に高い。ぜひともそれに応えるべく、この危機を突破してもらいたい。
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