存立危機事態問題で露呈した「自民党外交」の劣化、日中外交"チキンレース"終息のカギは《過去》にある

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「わが国に対する武力攻撃が発生していない場合であっても、例えば、わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国において生活物資の不足や電力不足によるライフラインの途絶が起こるなど、単なる経済的影響にとどまらず国民生活に死活的な影響が生じるような場合には、状況を総合的に判断して、わが国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況に至る可能性はありえます。そして、新3要件をすべて満たす場合には、わが国による自衛のための武力の行使を行うことが可能となります。 いかなる事態が存立危機事態に該当するか、すなわち、新3要件の判断に当たっては、事態の個別的、具体的な状況に即して、主に攻撃国の意思、能力、事態の発生場所、事態の規模、態様、推移などの要素を総合的に考慮し、わが国に戦禍が及ぶ蓋然性、国民が被ることとなる犠牲の深刻性、重大性などから客観的、合理的に判断することとなります」

その表現は非常にテクニカルで、どこの国を対象とするのかについての推定を許さないものだった。言い換えれば、どの国でも対象としえた。

岸田文雄元首相に至っては、23年1月の衆院予算委員会で存立危機事態の具体例を問う岡田氏に対して、「わが国の国民の命や暮らしを守る手立てを、手のうちを明らかにするということになるわけだから」と細かく具体的に答弁することを拒否したうえで、従来の政府見解を繰り返した。

しかし、高市首相はその“聖域”に足を踏み入れてしまった。さっそく中国駐大阪総領事館の薛剣総領事がかみついた。11月8日、X(旧ツイッター)に「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない。覚悟が出来ているのか」と書き込んだ。

13日には中国外交部の林剣報道官が「日本側はただちに誤りを訂正し、悪質な発言を撤回しなければならない」と批判。「そうでなければ、あらゆる結果は日本が負わなければならない」と恫喝した。

金井局長
SNSでは外務省の金井正彰アジア大洋州局長が中国外交部の劉勁松アジア局長に頭を下げているような写真が拡散された(画像:Xの投稿)

中国の孫衛東外務次官は同日深夜、金杉憲治駐中国大使を呼び出し、厳重に抗議した。日本からは外務省の金井正彰アジア大洋州局長が北京におもむき、中国外交部の劉勁松アジア局長と数時間にわたって話し合った。主張は平行線のままで折り合わず、会談後にうなだれた様子の金井局長とポケットに手を入れた劉局長の姿が中国のSNSで拡散された。

自民党から失われつつある「大人のやり方」

最大の懸念は、この問題が台湾問題にとどまる様子がないことだ。チャイナデイリー紙は15日の紙面に「琉球は日本ではない」と主張する学者のインタビューを掲載。中国外交部報道局トップの毛寧報道官は17日の会見で、21日からのG20サミット(主要20カ国・地域首脳会議)で李強首相との会談予定はないと断言したうえ、竹島についての日本の主張を批判して「侵略の歴史を深く反省すべきだ」と強調した。

もっとも、アメリカは高市首相寄りの姿勢をとっている。ジョージ・グラス駐日大使は薛総領事に対して「中国政府は『良き隣人』を口癖のように繰り返すが、全く実態が伴っていない。いい加減に、その言葉通りの振る舞いを示すべきではないか」とXに投稿し、「もはや外交と挑発の区別すらつかなくなってしまった」と批判。さらに15日には「ハロウィーンはとっくに終わりましたよ。そろそろお気持ちを切り替えてみてはいかがでしょうか」と軽くいなしている(いずれも原文ママ)。

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