キクノスケくんと暮らして10年。いまでは1人と1羽だけの独特な空気感を築いているが、実は一度だけ、離れ離れになってしまったことがある。
それは、あまりにもあっけなく、唐突に訪れた別れだった。
遠く離れていくキクノスケ
「飛んでいるキクノスケが、こんなに美しいなんて知らなかった」
そのときの情景を、カマタさんはnoteに書き記している。部屋のベランダから、朝日にきらめく神田川に沿って飛んでいくキクノスケくんを呆然と見送りながら、鳥としての原始的な美しさに、思わず目を奪われた。
それは、一瞬の気のゆるみだった。朝、出勤前にベランダでプランターに水を与えていたカマタさん。足元にはキクノスケくんがいたが、当時彼の飛行能力は、部屋の中でせわしなく羽を動かし、「長めにジャンプする」程度。まさか10階建てのマンションから飛んでいってしまうなど、考えてもいなかった。
しかし、カマタさんが誤ってジョウロを落とした瞬間、キクノスケくんの中の野性が発動した。落下音に驚き、ベランダの淵を楽々と越える高さまでバタバタと飛び上がった。そのまま羽を広げ、上昇気流に乗って高く飛んでいってしまったのだ。
「終わった、と思いました。これが僕とキクノスケの別れなのかと。一瞬のミスで、こんなに簡単に終わってしまうのかと」
キクノスケくんが見えなくなって初めて、カマタさんはことの深刻さを思い出した。
「すぐに探しに行きましたが、通勤ラッシュの都会の雑踏を見て、別れを覚悟しました。見つかるわけがない、と」
仕事に行く前に警察署に届け出を出し、鳥の迷子情報を掲載するネット掲示板にキクノスケくんの情報を書き込んで協力を求めた。しかし、心のなかでは諦めていた。



















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