欧州各国の同床異夢、広がる「脱緊縮」策
もっとも、いかに成長を実現するかをめぐっては欧州各国に温度差がありそう。「構造改革を伴う成長は望ましいが、財政赤字を垂れ流しながら成長するのは好ましくない」というのがドイツの立場。しかし、他のほとんどの国は雇用機会確保が喫緊の課題。国有企業民営化などを推し進めるのは非現実的だ。
ドイツでは00年代半ばに当時のシュレーダー政権が大胆な労働市場改革に取り組んだ。企業の解雇制限緩和や失業給付期間の短縮などを行う一方、就労支援機能を強化。一連の施策が奏功し、輸出競争力向上につながったという評価もある。
だが、労働組合を支持基盤にするオランド氏の場合、思い切った改革に着手することができるのか。成長戦略がインフラ整備など従来型の雇用創出策にとどまれば、ドイツの理解を得るのは難しいだろう。
「財政再建一辺倒」から「財政再建と経済成長の両立」へ軸足を移す欧州各国。その方法をめぐって足並みの乱れが少しでも見え隠れすれば、金融市場で投機筋は再び激しい揺さぶりをかけてくるに違いない。
ギリシャの先行きも混沌としたままだ。選挙後、各党とも連立政権交渉が難航しており、6月中旬の再選挙の可能性が高い。再選挙でも同様の結果となれば、財政再建への期待はさらに後退する。下値不安がくすぶる中、ユーロは「対円で100円割れが視野に入っている」(シティバンク銀行の尾河氏)。
円高の進行は日本企業に暗い影を落とす。12年3月期は円高やタイ洪水などで、自動車や電機メーカーが大幅減益に陥ったが、今期は多くが回復を見込んでいる。ただ、円の動向次第で状況は一変しかねない。
さらに中長期的に懸念されるのは「欧州信用不安により間接的に新興国経済に影響が出ないか」(トヨタ自動車の小澤哲副社長)だ。各社にとって収益拡大の拠り所となっている新興市場の成長が停滞するとなれば、その影響は甚大である。
成長路線へ踏み出す欧州だが、その道のりが険しいのは確かだ。
(松崎泰弘 =週刊東洋経済2012年5月19日号)
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