欧州各国の同床異夢、広がる「脱緊縮」策
ル・ペン氏の人気は伝統的な既存政党に対する強い不信感の表れともいえる。オランド氏は「変革、それは今」というスローガンをブチ上げたが、仏日刊紙の記者は「同氏が大統領になってもフランスは大きく変わらないだろう」と話す。
選挙戦は財政出動に積極的なオランド氏と、緊縮財政を推進するサルコジ氏という対立の構図で語られがちだったが、実際には財政再建に取り組むという点で大きな違いはない。オランド氏が選挙で掲げた公約には5年間で教員6万人増、国有企業保持など社会党の政治家らしい政策も散見されるが、「財政拡張主義者というよりもむしろ再分配強化主義者」(経済産業研究所の中島厚志理事長)。強者のおカネを弱者に回そうというのが基本的な考え方だ。
大企業には重たい法人税を課し、中小企業には減税を実施。富裕層に対する所得税率を引き上げ、税収は若年者の雇用対策に充当する。これではしょせん、「ゼロサム」だ。オランド氏は「成長重視」と強調するが、「どのような成長戦略を打ち出すのかについては踏み込んだ発言がない」(中島氏)。
見えない成長戦略の中身
それでも欧州他国には、オランド氏に呼応するかのように財政規律一辺倒からの脱却を模索する動きが広がる。欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁やEUのバローゾ欧州委員長らは相次ぎ成長戦略に言及した。
実際、緊縮財政の弊害も出てきている。スペインの今年第1四半期(1~3月)の国内総生産(GDP)速報値は2四半期連続で前期比マイナスとなり、景気後退局面に入った。財政支出削減が個人消費に悪影響を及ぼし、税収を圧迫。その結果、財政再建が遅れるという「負のスパイラル」に突入した感がある。「緊縮策や構造改革などに着手しても景気悪化に歯止めがかからないことを投資家が懸念し始めた」(ニッセイ基礎研究所の伊藤さゆり主任研究員)。
ドイツも“包囲網”を意識したのか、柔軟姿勢に転じた。メルケル首相は「財政協定見直しの話し合いには応じない」とするものの、EUの新しい成長戦略策定には理解を示す。「そうなれば、仏独両国のメンツも潰れずに済む」(シティバンク銀行の尾河眞樹シニアFXマーケットアナリスト)。両国間の問題に関しては今のところ、「ソフトランディング(軟着陸)」がマーケットのメインシナリオだ。