《ニュースの言葉を分かりやすく解説》ノーベル賞で注目「制御性T細胞」の知られざる凄み

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また模倣時に働いている遺伝子群がどのような仕組みでオンオフされているかを調べたところ、各組織固有の転写因子が結合することが、模倣を開始するスイッチになっていることがわかり、転写因子の種類が変わるごとに、皮膚・肺・肝臓・腸など異なる組織の細胞への模倣が開始されることが判明しました。

わかりやすくいうとこれら模倣細胞は、筋肉や腸などを模倣してもその臓器に成り代わることはなく、あくまで周囲にある胸腺細胞との一体性を失わずに変身し、ものまねをしているだけだったということです。

今後、T細胞の教育にある分子メカニズムがもっと詳しくわかれば、免疫細胞が正常な細胞や組織にも攻撃をしてしまう膠原病などの自己免疫疾患の治療にもつながっていく可能性があります。研究成果を実際の治療に応用するまではまだ長い道のりですが、免疫の根底にある疑問が解決すれば、自己免疫疾患に対する根本的な治療法が見つかるかもしれません。

全アレルギーを抑える最強タンパク質

さて免疫というものは普通、感染の原因となる微生物など、もともと自分の体にいなかったものに反応し、これらを排除しようと抗体を作り攻撃します。一方、自分の体内にすでにあったものに対して作られた抗体は、自分自身を傷つけることはありません。

しかし、免疫が誤作動を起こすと、花粉のような本来無害な物質に過剰反応してしまう「アレルギー」や、膠原病のように抗体が自分自身に反応し、攻撃する「自己免疫疾患」がでてきてしまいます。

このような誤作動を完全に制御することは難しく、これまでは免疫力全体を落とすしかなかったのですが、最近の研究で、免疫の理解が一歩進み、ニューリチンという物質がこれらの好ましくない免疫反応を上手に抑えることがわかりました。

そもそも、このような免疫の誤作動、つまり免疫が過剰になりすぎないように抑えるブレーキが、もともと私たち人間には備わっています。それによって、自分自身を攻撃してしまう細胞を排除したり、自分自身に反応する細胞を抹消のリンパ組織で無力化したりすることができます。

これに加え、積極的に免疫をコントロールする役目を持つ免疫細胞が坂口志文氏らによって発見されました。

これは制御性T細胞と呼ばれ、免疫学に大きな進歩をもたらしました。(※)この制御性T細胞はもともと、自分自身を攻撃するようになった抗体や、アレルギーの原因になるヒスタミンを放出する抗体をコントロールしてくれることがわかっていました。今回、明らかになったのは、これまで詳しく知られていなかったその抑制メカニズムです。

※ Sakaguchi S, et al. Organ-specific autoimmune diseases induced in mice by elimination of T cell subset. I. Evidence for the active participation of T cells in natural self-tolerance; deficit of a T cell subset as a possible cause of autoimmune disease. J Exp Med. 1985;161(1):72-87.
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