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《ニュースの言葉を分かりやすく解説》ノーベル賞で注目「制御性T細胞」の知られざる凄み

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  • 中尾 篤典 岡山大学学術研究院医歯薬学域 救命救急・災害医学講座 主任教授
  • 毛内 拡 お茶の水女子大学 基幹研究院自然科学系 助教
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これは、体の様々な細胞を真似た、多種多様の模倣細胞であり、胸腺には皮膚・筋肉・肺・肝臓・腸など様々な体の部位を真似た細胞が展示され動物園のようになった場所があります。そこでT細胞たちは模倣細胞と接することで、攻撃してはならない自分の細胞の特徴を学んでいたのです。

実は、1800年代の古い文献で、胸腺を顕微鏡で観察すると、胸腺の内部に筋肉・腸・皮膚の細胞に似た雑多な細胞が存在することがわかっていました。

しかし、当時、胸腺は古生物では機能していたがその後、退化して跡だけが残っているだけの何の意味もない、摘出しても大丈夫な痕跡器官とみなされており、後年に至るまで詳しい調査が行われることはありませんでした。今回の研究は、この1800年代に行われた古い発見に意味を与え、さらに分子レベルでのメカニズムの解明にも挑んでいます。

「落ちこぼれ」T細胞の運命は?

これまで、未熟なT細胞が分化するとき、胸腺の中で自分自身を攻撃するT細胞が除去されることがわかっていました。さらに最近、教育に失敗して自分の体を攻撃してしまいかねない「落ちこぼれ」T細胞の運命は、自己破壊命令を受けて自殺する場合と、免疫システムの攻撃を抑制するタイプのT細胞(T reg)に転用される場合があることが判明しました。

免疫システムの根幹となる戦うT細胞となるには、敵味方の識別能力が必須であるため、落ちこぼれには厳しい「自殺命令」や「配置転換」の措置が取られるのです。

しかし、自己とはいっても、私たちの身体には極めて多様な臓器や器官があり、それぞれに対応する自己抗原をどうして胸腺で用意できるのかについては、古くからの謎でした。

これまでは、Autoimmune regulator (Aire)と呼ばれる補助的な役割を持つ分子が、ランダムに様々な末梢組織の分子の特徴をつかんで、変身を繰り返し、胸腺の中で自己抗原をまるで映写機で映すように提示すると考えられてきました。

しかし今回の研究で、未熟なT細胞たちが身体の様々な部分を真似た模倣細胞をリアルな教材として覚え込むことで、敵味方を区別する能力を獲得していたことが明らかになりました。これは免疫システムの根本に関わる極めて重大な発見といえます。

しかも、筋肉や皮膚、肺や肝臓を模倣している細胞では、それぞれの組織に固有の遺伝子群が働いていることが判明しました。つまり、模倣細胞による「まねっこ」は単に外観を似せているだけでなく、遺伝子の働き方のレベルにまで及んでいたのです。

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【「制御性T細胞」とは?】

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