「パフォーマンスじゃないのだが…」、"高速餅つき"大人気の陰で店主が苦悩するもっともな理由。一斉にスマホで撮影、見せ物化する伝統文化

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高速餅つき
高速餅つきは真剣勝負だ(写真:中谷堂提供)

一般的に、夏の時期はお餅の売り上げが落ち込むと言われる。しかし、古都・奈良に店を構える1992年創業のよもぎ餅専門店・中谷堂(なかたにどう)は、季節に関係なく多くの観光客で賑わい、繁盛を続けている。

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店主が「毎日が戦い」と語るジレンマ

中谷堂の代名詞となっているのが、代表の中谷充男さんと職人たちが臼に杵を激しく打ち、怒涛の掛け声と共に行われる「高速餅つき」だ。

その圧倒的なパフォーマンス性から、この餅つきは国内外の観光客の注目を集めている。筆者が訪れた日も、お盆明けの平日だったが、店先には観光客が30人ほど集まり、次々にお餅が売れていた。

ところが、多くの人を惹きつける餅つきの裏側には、店主・中谷さんが今も抱える深刻な葛藤が存在する。

中谷さんにとって、高速餅つきはあくまで、美味しいお餅を作るための古くからの純粋な手法であり、「芸として見てもらおうと思い、やっているわけではない」という強い信念があるからだ。

にもかかわらず、特に外国人観光客に餅つきが大道芸人のように映ること、あるいは笑いの対象になることに苦悩している。

撮影する人たちと中谷さん
高速餅つきが始まると、店の前にはスマートフォンを掲げた人が並ぶ(写真:筆者撮影)

取材の日、中谷さんが餅つきを始めるや否や、観光客が一斉にスマホを取り出し、撮影し始めた。

すると、スマホを構えている外国人の女性が声を上げて笑った。悪気があったわけではないと思う。ただ、背中でその声を聞いた筆者は、日本文化へのリスペクトがあるとは言い難い反応だと感じた。

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