「パフォーマンスじゃないのだが…」、"高速餅つき"大人気の陰で店主が苦悩するもっともな理由。一斉にスマホで撮影、見せ物化する伝統文化

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このため、中谷堂では客と自動車による接触事故がないように、常時2名以上の警備員を雇い、社員もそのサポートに周って安全確保に努めている。

取材で訪れている時も、中には警備員が大声で「車が通ります!」と呼びかけているのに、餅つきを撮影することに夢中で気が付かない客の姿も見られた。

「高速餅つき」の人気は、原材料の確保、そして店先の交通問題という、難しい課題も伴っているのだ。

ただひたすら美味しい餅を作り続けたい

とはいえ、悲観的なことばかりではない。高速餅つきは美味しいお餅を作るための日本の伝統的な手法。「芸として見てもらいたいわけではない」という思いは、弟子たちにもしっかり受け継がれている。

「(弟子たちが)格好だけでやっているかどうか、一目見たらわかります。踊りをやっているわけではないんです。肝心なところは、お餅をつく時に力が入っていること。それをはき違えている時はものすごく注意しますね。

見せ物ではない。美味しいお餅を作るために、しっかりと餅つきをする、真面目にやるという。それが一番大切なんです」

インタビューに答える中谷さん
インタビューに答える中谷さん(写真:筆者撮影)

中谷堂は今年で33年目を迎える。お店にはお餅を食べ歩きで楽しむ人たちの姿、パック買いをして、家族や友人と食べようと帰宅を急ぐ人たちの姿があった。

筆者も、持ち帰ったよもぎ餅を家族と食べた。つきたてのものはとても柔らかかったが、持ち帰ったよもぎ餅には弾力のある食感があり、よもぎとあんこの風味がちょうどよく口の中で広がった。「持ち帰って食べる方が好きって言う人もいます」と中谷さんが言っていたことが理解できた。

ワンフロアで窓一つない店構えの店にはエアコンもない。中谷さんと職人たちは、暑い日も寒い日も餅をつき続けているのだ。今日も古都・奈良で、中谷堂の力強い掛け声と餅を打ちつける音が響いているのだろう。

【↓あわせて読む↓】
古都の名物「よもぎ餅」、"高速餅つき"で作り続けて30年以上。《社長が語る半生》挫折の先に見つけた一生の仕事、守り続ける母の味
池田 アユリ インタビューライター

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いけだ あゆり / Ayuri Ikeda

インタビューライター。愛知県出身。大手ブライダル企業に4年勤め、学生時代に始めた社交ダンスで2013年にプロデビュー。2020年からライターとして執筆活動を展開。

現在は奈良県で社交ダンスの講師をしながら、誰かを勇気づける文章を目指して取材を行う。『大阪の生活史』(筑摩書房)にて聞き手を担当。4人姉妹の長女で1児の母。

HP:https://www.foriio.com/amayuri4

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