コメの価格はいつになったら下がるのか? 「保護されすぎている農家」という構造的問題

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ときには大胆な政策展開を考えることも必要かもしれないが、ほとんどの場合、個別具体的な政策展開においては、過去の政策との連続性を担保しつつ、慎重にチューニングしていく必要がある。まず足もとでは、その適切な設計が必要になる。

そして、その設計のためにはコメ農業の目指すべき状態を、より長期の視点でしっかり描くことも重要になる。そのうえで、大きな課題解決にむけた農業生産力・基盤強化という骨太の政策展開が求められる。

まず足もとで取り組むべき政策

農家の保護の在り方をどうすべきかということが、2025年夏の参議院選挙でも話題になったが、少なくとも足もとの課題は、農家の保護をどうするかではない。いまは主食用米が高くなりすぎていることで、農家は非常に儲かる状態になっており、ある意味、保護されすぎている状態にある。

まずなにより、コメの価格を下げることが必要だ。令和7年産で、自然体で主食用米の生産増がすすみ、すぐに価格の沈静化がもたらされればよいが、そうならなかった場合には、令和8年産でさらなる増産に取り組む必要がある。

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令和8年産の増産にむけて、農家の主体的な判断だけで十分な量が確保できればよいが、その見通しが厳しい場合、令和7年の秋から令和8年の春にかけて、行政サイドから農家に対する積極的な働きかけが求められる。さいわい、令和7年3月まで作成していた地域計画づくりにおいて、行政と農家・集落の間にその関係ができているはずである。

もちろん、思いきった増産は急激な価格低下をもたらす可能性があり、その事前の対策も不可欠である。現状、備蓄米が80万トン以上も不足しているわけだから、政策の設計は可能なはずだ(価格が低下しすぎる兆しが出た時に、すみやかに相応な価格で備蓄米を買い入れるなど)。

一定の生産量、価格水準に安定させたうえで、令和9年度以降の新しい水田政策を構築していく必要がある。まず取るべき政策は、転作作物への助成の削減だろう。ただし、いきなりゼロにするのではなく、「それほど儲からないけれど、農家がやってもいいと思えるレベル」に設定する必要がある。

現在の多くの大規模農家は、主食用米、転作作物(非主食用米、小麦・大豆)の組み合わせで経営をおこなっているが、今般の令和のコメ騒動は、主食用米の価格が下がりすぎたことにより、転作作物へのシフトがすすみすぎ、主食用米生産が減少しすぎたことで、主食用米が暴騰した。やはり、転作作物の補助金で、主食用米の生産量をコントロールするには、無理があるのではないだろうか。

いまは非主食用の飼料用米や加工用米、備蓄米など、用途別のコメの生産量を先に確定している。今後は、主食用米を中心としたコメ全体の生産量目安をもちつつ、主食用米の需要からあぶれる部分を、事後的に非主食用米にまわすような制度設計が求められるのではないだろうか。

稲垣 公雄 三菱総合研究所・食農分野フェロー

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いながき きみお / Kimio Inagaki

滋賀県生まれ。京都大学経済学部経営学科卒。1990年、三菱総合研究所入社。これまでに、関西センター長、ものづくり事業革新センター長、経営イノベーション本部副本部長として事業会社・金融機関などのコンサルティングに従事。2021年より食農分野担当本部長、24年10月より研究理事(フェロー)。現在は、企業経営戦略・農業政策に関する研究提言、農業分野を中心に社会課題解決を実現する企業・経営体や行政組織の事業改革、事業創出に取り組む。

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三菱総合研究所「食と農のミライ」研究チーム

三菱総合研究所(MRI)は、1970年に三菱グループ100周年事業で設立されたシンクタンク。食農分野においては、「食と農のミライ」研究チームが中心となり、日本の農業の持続的発展を通じた食料安全保障の実現や、食品・農業の環境対応などの社会課題解決を目指した研究提言・事業実装に取り組んでいる。

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