次期首相は右派ポピュリズムへの対応を迫られる、離反した「右寄りの有権者」の支持を取り戻すことはできるか

7月に行われた参議院選挙での惨敗を受け、自由民主党と公明党による連立与党は衆参両院で過半数を割り込んだ状態で政権運営を余儀なくされる事態となった。さらに衝撃を与えたのが右派ポピュリズム政党である参政党の躍進だ。
同党は新型コロナウイルス禍の期間に結党し、YouTubeなどを通して支持を拡大。「日本人ファースト」や減税、農業保護、ワクチン懐疑論、外国人受け入れ・外国資本に対する制限強化といった訴えを掲げ選挙を戦った。
保守系の自民党は、引き続き国会で最多議席を占めており、参院の権限は衆院ほど強くはない。それでも、自民党の参院選での苦戦は石破茂首相の退陣につながった。4日に選出される新たな自民党総裁は、野党の協力を取り付けるという課題に取り組みながら、離反した右寄りの有権者の支持を取り戻す必要がある。
参政党は、外国人の「静かな侵略」に警鐘を鳴らしてきた。ある選挙集会では、神谷宗幣代表が韓国・朝鮮人に対する差別的な表現を用い、直後に謝罪した。同党が2022年に出版した書籍では、新型コロナへの恐怖が「ユダヤ系の国際金融資本」によりあおられているとの見解を示していた。同党は、誤解を招く表現があったとして書籍を改訂したと説明し、反ユダヤ主義的な見解を持っていることを否定。今夏の記者会見で神谷氏も同様に否定している。
神谷氏は広報担当者を通じて送付した声明で、「企業収益は増えても賃金分配が進まず、株主還元のみが強化されるため、働いても利益は株主へという不公平感が強まっている」と指摘。「物価高が続く中、積極財政と公正な所得分配による経済成長を通じ、現役世代の生活向上を図る構造改革を推進していく」考えを示した。参政党の支持層は30代から50代の現役・子育て・就職氷河期世代だという。
参政党の支持者ないしは共感者への取材では、実質賃金の停滞や自民党政権下での疎外感に対する怒りが明らかになった。中には外国人に対する不安を口にする人もいた。日本では外国人の割合は比較的小さいものの、増加傾向にある。
埼玉県在住の看護師、工藤美栄子さん(56)は、現在約46%の国民負担率に上限を設けて35%に抑えるという参政党の訴えに賛同し、支持を決めた。高齢化による社会保障費の増加に伴い、負担率は今後も徐々に上昇すると見込まれている。工藤さんは、「給料明細を見た時、社会保険料でなぜこんなに取られてるのか」と思ったという。これまでは福祉に使われるので仕方がないと思っていたが、医療現場は「全くよくならない」と語った。
「真ん中の層」
成蹊大学の伊藤昌亮教授は、過去1年程度で起きている現象のポイントは「真ん中の層」だと語る。これまでの国内政党は貧困層や子育て世代、大企業や富裕層を優先する傾向が強く、「今更真ん中に注力する勢力はあまりなかった」と分析。受け皿となっているのが国民民主党の「現役世代」や参政党の「日本人」という言葉だという。
SNS上では、こうした疎外感は外国人が日本人より優遇されているという主張となって表れることが多い。例えば、X(旧ツイッター)上では、日本人が何年もかけて教育ローンを返済する一方で、政府は中国人留学生に支援金を支給しているといった投稿が拡散されている。確かに一部の博士課程の外国人留学生を支援する政府プログラムは存在するが、受給者の大半は日本人だ。
福岡在住で都市計画コンサルタントとして働く池田あかねさん(32)は、地元の参政党候補が掲げた外国人に対する規制強化という方針に共感したという。ただ、参院選では別の政党に投票した。例えば、外資が入っても地域にお金が落ちてないという話を耳にするとし、「外国人がどうこうというよりかは、日本の制度設計の甘さが見えている」と、池田さんは語った。