マーケットの効率化はもはや善とは限らない--ハワード・デイビス パリ政治学院教授
米国は世界で最も懐が深く、流動性が高く、効率がいい金融システムを持っており、それが効率的な資本分配や経済発展、雇用創出を支えている──。こうした見解が、米国の議員や規制当局者、金融企業によって過去数十年にわたり示されてきた。
だが、こうした想定が現在問いただされ始めている。2008年の金融危機以前は、規制当局は取引の障害を取り除くことに焦点を当てていた。より多くの種類の金融債権を、より迅速に、より低コストで取引できるよう促し、市場を完全なものに近づける措置を支持していた。
しかし、これはもはや現実ではない。反対に今日では多くの人々が、「市場の効率化はつねに公共の利益にかなう」という想定に疑問を抱いている。効率化は市場の不安定さを助長し、顧客よりもむしろ仲介業者に恩恵を与える面もあるのではないかとの声が上がっている。
たとえば、財政危機への対応策としてEUで提案されている金融取引税(FTT)では、年に500億ユーロ以上の税収を生み出す広範な課税が示唆されている。同税は、ロンドンから60~70%が徴収されることになるため、欧州大陸の同税支持派にとっては一層魅力的になっている。
反対派は、金融危機以前の言葉を使って、FTTは市場の効率性を低下させ、取引は他の場所に移されてしまうと主張する。その意見に対し、FTT支持派は、「それがどうした? 取引の多くは社会の役に立たず、ないほうがよいのだ」と応酬している。