マーケットの効率化はもはや善とは限らない--ハワード・デイビス パリ政治学院教授

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われわれは、こうしたトレンドを歓迎すべきだろうか。光速取引は自由市場の涅槃の境地をもたらすのだろうか。

この問いに答えるのに必要な証拠はそろっていない。売買の呼び値スプレッドが縮小しているように見えるが、これはよいことと見なされるかもしれない。しかし、ボラティリティが高まると同時に、市場同士の影響も強まっている。ある市場の不安定さが複数の市場にも伝染する。

流動性に関しては、表面的には増大しているように見えるが、米国証券取引委員会と米国商品先物取引委員会による報告書は、HFTトレーダーが大きく流動性を低下させ、問題を悪化させていたことを示した。HFTトレーダーがもたらしているかに見えた流動性は、それがいちばん必要となる状況下では頼りにならないことがわかった。

ここには規制当局に対する教訓がある。まず規制当局は市場監視をより一層高度かつ高速で行えるようにする必要がある。またサーキットブレーカー制度(フラッシュクラッシュのときはシカゴ市場がこれに助けられた)に再び目を向ける、マーケットメーカーに課する義務を増やす、なども挙げられる。

こうした措置は注意深く調整されなければならない。義務が増大すれば、マーケットメーカーは市場から追いやられる可能性がある。だが、ホールデイン理事は、総じて市場は、出来高急増の結果、より不安定になったとし、「凍結した道路にまく砂粒のように、車輪の中の砂粒は次の暴落を未然に防ぐ可能性がある」と結論づけている。

市場参加者は新たなアジェンダにもっと効果的に取り組む必要がある。より高度な議論がなされなければ、市場参加者は積み重なる規制の砂袋の下敷きになってしまうかもしれないのだから。

Howard Davies
1951年英国生まれ。オックスフォード大で歴史学、スタンフォード大で経営学の修士号取得。英中銀副総裁などを経て97年に金融サービス機構(FSA)の初代理事長に就任。2003~11年までロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)学長。

(週刊東洋経済2012年4月28日・5月5日合併特大号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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