知っておきたい「指導」と「ハラスメント」の境界線――「謝れ」「辞めてしまえ」…罵詈雑言でも懲戒解雇にならない理由
当事者が調査を希望する場合には、次のステップとして「加害者とされる当事者(以下、行為者)」に対して、聞き取った内容を確認します。
同じ事実をそれぞれの主観で語ってもらうことになるのですが、齟齬がある部分や、それぞれの認識の違いをここで確認します。さらに必要があれば、第三者にも同様の聞き取りを行います。
なお、ハラスメントの調査方法によってはプライバシーを侵害する恐れもあり、慎重な対処が求められます。
重要なのは、ここまでのヒアリングでハラスメントの有無や軽重を判断してはいけないということです。
ハラスメントについて判断をくだす場合は、前述の通り「ある言動」の事実そのものがあるかどうか、事実が存在した場合にそれがハラスメントに該当するかどうかという観点から判断することになります。
つまり具体的な項目に注目し、総合的に結論を出します。以下は、パワハラ防止指針*記載の内容に、私が補足したものです。
*「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和2年6月1日適用】」
・ その言動を受けた労働者に問題行動があったか。あった場合、その内容・程度はどの程度のものであったか
・ その言動が行われた経緯や状況はどのようなものであったか
・ その言動は業務の内容上、必要なものであったか
・ その言動はどのように行われたか
・ その言動、その他これに類するような言動が繰り返し行われているか
・ その言動を受けた労働者の属性や心身の状況はどのようなものだったか
・ 行為者と、その労働者の関係性はどのようなものか
「労働者の属性」とは、業務の経験年数や年齢、職位、障害の有無、外国籍か否かといった、その人の固有の情報のことです。この属性が重要になるのは、「その属性の、他の平均的な労働者がどう感じるか」というハラスメントの判断基準があるからです。
懲戒解雇になるケースは稀
例えば、入社して間もない社員に向けた叱責であったとしても、まったく経験のない新卒社員と、業界経験があって中途採用で入ってきた社員とでは、求められる業務の完成度や工数が変わってきます。
「心身の状況」という観点では、例えば、残業が突出して増えている時期であったり、異動してきたばかりで職場の人間関係がわからない職場などの状況だけでなく、私傷病や、育児・介護などの状況も考慮されます。
したがって、「ハラスメントに該当するか否か」という判断は、一般常識に照らしてかなり妥当なものになるといえます。誰がどう見ても「ハラスメントだろう」と思われるのであれば、その可能性が高いのです。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら