知っておきたい「指導」と「ハラスメント」の境界線――「謝れ」「辞めてしまえ」…罵詈雑言でも懲戒解雇にならない理由
しかし、ハラスメントに該当すると判断することと、その処罰をどのようにするかは別の問題です。
ハラスメント行為者は即、懲戒解雇になると考える人も多いのですが、それが妥当とされるケースは稀です。例えば次の事例で、裁判所は「ハラスメント行為者に対して、会社が行った処分は妥当なものである」と判断しました。
→けん責処分(株式会社エヌ・ティ・ティ・ネオメイト事件 大阪地判平成24年5月25日)
→訓戒処分(辻・本郷税理士法人事件 東京地判令和元年11月7日)
→戒告処分(アクサ生命保険事件 東京地判令和2年6月10日)
→出勤停止処分と、それによる社内規定上の運用での降格処分(海遊館事件 最高裁小一判平成27年2月26日)
一般に、企業における懲戒処分は重い順に「懲戒解雇・諭旨解雇(諭旨退職)・降格・出勤停止・減給・戒告(けん責・訓戒)」の6段階で設定されます。これらの事件は裁判にまで発展しましたが、一般の感覚に照らして、かなり軽い処分に留まっています。
裁判所は「会社が行った処分は行き過ぎではない」と認めました。なお、株式会社エヌ・ティ・ティ・ネオメイト事件を除き、「これが妥当な処分である」とまでのことは言っていないことを申し添えます。
「懲戒権の濫用」という考え方
ハラスメントが当事者に対して甚大な影響を与えることを考えると、私としてはこれらの処分は軽すぎるのではないかと感じますが、裁判所がこうした処分を適当だと考えるのは理由があります。それは「懲戒権の濫用」という考え方です。
そもそも、懲戒処分を行うには、就業規則に懲戒の種類・内容が明記されることが前提として必要です。懲戒処分は社内における制裁としての規定なので、その違反内容と処分内容が均衡していることが求められます。
懲戒処分を受けると、連動して人事上の処分である降給・降格になる場合もあり、労働者の利益を著しく害するものになります。
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