子供をあやしていたら異変…虐待疑われ、自白しなくても逮捕。《冤罪》生む「揺さぶられっ子症候群」―無実の親が逮捕されるワケ

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――冤罪が起こる理由についてどのように考えますか?

上田:冤罪は構造によって生み出されるものです。その多くは長期間の身柄拘束を前提とする人質司法が生み出す虚偽自白によるものですが、日本では取り調べの可視化もほとんど進んでいません。

そして、今回取り上げたSBSのような科学的な証拠に基づく冤罪は、その捜査の手法が一旦広まったら誰もチェックできません。しかも、裁判所は迷ったら検察の主張に乗ることが多い。

刑事裁判官は迷ったら有罪にしてしまう裁判官が多いように見受けられます。無罪を書きにくいカルチャーがあるのではないかと。退官した裁判官に取材したところ、無罪判決を書く方が大変だし難しいとのことでした。検察の主張に従えば、形式的には、プロが拾ってきた証拠があるので、スムーズに有罪の判決が書けます。

本来、刑事司法の原則は「無罪推定」なので、裁判官は検察の有罪立証に疑いを挟む余地があれば無罪判決を下さなければならないはずです。

しかし、刑事司法の目的が「秩序維持」に大きく傾くとそういう判断になりやすい。

悲惨な事件ほど「何とか解決しないと」という要請がものすごく働きます。捜査機関にとってそれは相当なプレッシャーになるはずですよね。秩序維持を重視すると「犯人はわからない」という結論が許されないことになってしまう。しかし、裁判官はそれに引きずられてはいけないのではないでしょうか。

誰かに罪を負わせれば、秩序は維持されたと思えて、みんな安心できます。でも、それによって多大なる人権侵害が起こってしまう。そのことは、法曹関係者のみならず、社会全体で認識しなければならないと思います。

8年に及ぶ調査報道

――調査報道は8年にもわたりました。

上田:8年間で約30組のご家族から当事者の思いを聞きましたが、時間の関係で4組のご家族に絞っています。伝えるという前提で取材させて頂いているので、4組に絞らざるを得なかったことは本当に申し訳ないと思っています。そして、伝えられなかった方々の顔は毎日のように思い浮かびます。やはり当事者の方々の悲惨な状況を目の当たりにしてきたので……。

冤罪は家族も被害に遭います。離婚をされた方もいるし、親子が一緒に住めないままずっと生きてきた方もいる。ぜひ、劇場でご覧頂いて、この事実を多くの方々に知ってほしいと思います。

『揺さぶられる正義』の監督、関西テレビ所属「弁護士記者」の上田大輔さん(写真:本人提供)
『揺さぶられる正義』の監督、関西テレビ所属「弁護士記者」の上田大輔さん(写真:本人提供)
【写真を見る】多くの冤罪を生んだ「揺さぶられっこ症候群」。弁護士記者の上田大輔さんが監督を務めた『揺さぶられる正義』は当事者4組の家族を追っている。
熊野 雅恵 ライター、行政書士

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くまの まさえ / Masae Kumano

ライター、合同会社インディペンデントフィルム代表社員、阪南大学経済学部非常勤講師、行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、映画、電子書籍の企画・製作にも関わる。

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