子供をあやしていたら異変…虐待疑われ、自白しなくても逮捕。《冤罪》生む「揺さぶられっ子症候群」―無実の親が逮捕されるワケ

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――その流れを変えたのが、劇中に登場するSBS検証プロジェクトチームなのでしょうか。

上田:はい。Winny事件など刑事弁護で多くの無罪判決を獲得している秋田真志弁護士と刑事訴訟法の研究者・笹倉香奈教授(甲南大学)が2017年9月に立ち上げたSBS検証プロジェクトチームが、本当にゼロベースで一から原因を医学的に調査しました。

そこから一気に状況が変わりました。秋田弁護士率いる弁護団が、海外も含めた複数の医師たちからの協力を得て科学的な検証をし直しました。すると、静脈の中で血栓が形成され、静脈が詰まって起きる静脈洞血栓症という病気の発症の可能性や、低い場所からの落下によって硬膜下血腫が生じ窒息する可能性などが指摘され、激しい揺さぶり以外でも、死亡や重傷の結果が起こることがわかったのです。

こうした弁護活動により、2018年以降、プロジェクトが関与した確定無罪判決は、11件にのぼりました。

“正義感”が冤罪を生む

――SBSと診断した医師が「私は子どもの味方なので」と呟くシーンがあります。虐待を防止するために、「判断が難しい時は虐待とする」と判断することがあるのでしょうか。

上田:そうだと思っています。頭の画像では出血があることはわかっても、原因まではわからないというケースは多数あるのに、自分の判断や評価を入れてしまっているように聞こえます。

そうした場合に「虐待である」と判断するのは普段は子どもの命を救っている専門家としての価値観、正義感なのではないかと。僕はそれを「正義」と呼ぶことにこだわっていますが、本当は虐待と判断できない事案であっても、やはり、正義感で虐待を止めようとしているように僕には映りました。でも、だからこそ一歩引いて考えなければならない。

そして、司法関係者も同じだと思います。裁判官も検察も「証拠に照らして適切に判断を下した」と言っていますが、価値観が先行しています。最初に評価が入って、理由を後付けしているという構造があるように見えました。

警察・検察は虐待ストーリーを最初に作ります。そして、都合の悪い証拠が出てきても、見えないようにするか、小さくする。そして、自分たちのストーリーに沿う医師の意見ばかりを集める。確証バイアスと言いますが、自分たちの有罪証拠は光って見えて、無罪の証拠は小さくかすんで見えてしまうのです。

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