シャープ、液晶事業売却に「ノーコメント」 下方修正で経営再建への道のりは視界ゼロ
シャープが交渉中であると伝えられるのが、台湾のEMS(電子機器受託製造サービス)世界最大手・鴻海精密工業と、ジャパンディスプレイ(JDI)およびその大株主である産業革新機構だ。
鴻海にとって、シャープの高精細パネルの生産技術を得るメリットは大きく、有力候補とされている。鴻海はアップルからiPhoneの組み立て製造を受託しているが、基幹部品の液晶については内製化できておらず、シャープやJDI、韓国のLGディスプレイから調達している。そのため、アップルへの供給実績を持つシャープの技術が、鴻海には魅力的なのだ。
ただ、 2012年にシャープが経営危機に陥った際、鴻海がシャープ本体への出資に合意したものの、シャープの巨額赤字などを理由に計画が頓挫した経緯があることから、シャープ経営陣が抱く鴻海への疑念は大きい。また、技術流出の懸念や、雇用維持への不安といった声もある。そこで新たな候補として挙がっているのがJDIと産業革新機構である。
JDIにとって、シャープ・鴻海連合が成立すれば、死活問題となる。鴻海がシャープの技術を手に入れれば、収益柱であるiPhone向け液晶のシェアを奪われ、JDIの業績は急悪化しかねない。その事態を避けるべく、シャープの液晶事業との統合を狙っているものとみられる。JDIの本間充会長兼CEOは、東洋経済が9月に行ったインタビューでこの件に関し、「考える姿勢を示す必要がある」と否定することはなかった。
JDIと統合なら独禁法抵触も
そのJDIとシャープの統合案に強い影響力を持つのが、JDIの大株主(出資比率35.5%)である産業革新機構だ。産業革新機構自体がシャープ本体に出資するという案も取り沙汰されたが、JDIの競合相手であるシャープに出資することは、株主の利益相反にあたるために難しいとされる。
仮にJDIとシャープの液晶事業の統合話がまとまったとしても、両社は高精細の中小型液晶市場を寡占しており、地域によっては独占禁止法に抵触する可能性がある。問題解消には一部事業の譲渡などで、対策を講じる必要が出てくる。
どちらを選んだとしても、課題は山積み状態だ。加えて、10月に社内カンパニー制を導入したため、各事業への資本や負債の分配、資産の査定が現時点でできておらず、売却や出資額を算定しにくい状態になっていると見られる。
シャープの液晶事業の“嫁入り”は難航している。早期に手を打たなければ経営状態は悪くなる一方だ。シャープに残された時間は長くない。
(撮影:今井康一)
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