VW、それでも日本でディーゼル車を売る理由 ブランド失墜でも引くワケにはいかない

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VWの得意とする「ゴルフ」などの小型車分野は欧州プレミアムブランドの攻勢が激しくなっている

ただ、不安要素も多い。まず、みずからが起こした排ガス不正事件を受けて、ディーゼルの排ガス規制を強化する動きが出てきていることだ。

ディーゼル車の大きな欠点は排ガスにある。黒い“すす”の基となるPM(粒子状物質)や、NOx(窒素酸化物)などの有害物質を発生させる。これらの排出量は各国で厳しく規制されているため、何らかの浄化システムが必要となる。多くの車は、PMを取り除くフィルターや、化学反応でNOxを別の物質に変える触媒といった「後処理装置」を搭載している。

規制が厳しくなれば、触媒も高性能のものを搭載しなくてはならず、車両価格に跳ね返る。さらに言えば、VWの得意領域に不利だ。VWのディースCEOも「SUVなどの中大型車ではディーゼルは安定した人気を保っているが、最新技術を取り入れた後処理装置が高くなっているため、小型車は不利。ディーゼルからエンジン車へのシフトが近年著しい」と認める。

小型車は「電動化へシフト」

実際、VWはディーゼル車の日本投入計画を進めつつも別の手も検討している。今年10月に入ってから打ち出した「電動化へのシフト」だ。主たる発表の1つに、VWグループが抱える複数のブランドの小型車用に、電気自動車(EV)専用の共通プラットフォーム(車台)を開発するという項目があった。

今やディーゼルでは競争力がなくなってしまった小型車は、EVへ転換していこうというのである。数量が多く見込めるセグメントで展開することで、車両価格を下げようという狙いだ。1回の充電での航続距離は250~500キロメートルを想定する。

信頼回復の道は険しい

今回のモーターショーでは、新型SUV「ティグアン」や「パサート」、そして「ゴルフ」などのプラグインハイブリッド車(PHV)の出展が目立った。世界各国の環境規制は厳しくなる一方であり、EVやPHVの導入は不可欠になる。

「不正があったから今回の発表があったわけではない」。ディースCEOはそう言うが、以前にも増して企業イメージも含めて、電動化を強く押し出す必要が出てきたことは間違いない。

とはいえ、EVは日産自動車の「リーフ」をはじめ販売台数はまだ少ない。充電インフラも十分に設置されているとはいえず、世界的にも日本でも市場拡大の土壌がまだ整っていない。ブランドイメージの低下、コスト面での厳しさ、小型車展開の不利さなどという要素が重なっても、VWにとっては、市場が拡大しているディーゼル車の日本投入計画を推し進めるほうが、目先は必要になっているのだろう。

(撮影:尾形 文繁)

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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