IFRSはまったくモノづくりに合わない--『IFRSはこうなる』を書いた田中 弘氏(神奈川大学経済学部教授)に聞く
2015年から連結先行で強制適用になるかに見えたIFRS(国際会計基準)が、結局、「任意適用」「連単分離」の方向になりそうだ。はたして「空騒ぎ」で終わるのか。
──上場全社がIFRSの導入準備に大わらわのはずが、そうではないですね。
適用するにしても連結財務諸表だけ、それも任意適用になりそうだ。早期に導入したのは住友商事、HOYA、日本板硝子、日本電波工業の4社のみ。中身が議論されるようになって、この基準はどの会社もが使えるものではないとなってきた。
──審議会などでかなり前に「中間報告」が出ています。
検討が中身を精査せずに進んできた。IFRSの採否、適用時期と対象、個別財務諸表(単体)にどう影響するかといった議論ばかりだった。世界で財務諸表といえば連結のみのことで、単体は普通関係がない。それさえ意識されない議論だった。産業界が納得するような議論ではなかった。
──納得する議論?
個別財務諸表は「切れば血が出る」。利益が計算され、そこに税金がかかってくる。税金を引いた後、それが原資に配当される。実際に財産が動く。これに対して連結財務諸表は財産が動くわけではない。連結はあくまで、企業集団がもし一つの会社だとすればこういう財務諸表になるという、仮定の計算結果だ。片方は切れば血が出る財務諸表なのに対して、片方は投資家に対する単なる投資勧誘情報。日本ではそれがごっちゃにされている。
──それは会計のイロハでは。
会計学の世界はたこつぼ化していて、しかも国際会計を研究する人は一握りしかいない。人数が限られているうえに、国際会計の中でもリースだけとか、限られた分野を手掛ける人がほとんどだ。そういう人は産業界向けのメッセージにも疎い。