IFRSはまったくモノづくりに合わない--『IFRSはこうなる』を書いた田中 弘氏(神奈川大学経済学部教授)に聞く
──産業界は何を問題にしているのですか。
問題点はいくつもある。たとえば単体に適用されたら、税制にも配当にも影響する。簡単にいえば、日本の税収や日本企業の配当政策を「ロンドン」が握ることになる。しかも、IFRSは「モノづくり」に適していない。
製造業は、長期的なスパンで少なくとも5年、10年先を見据えて経営している。それにもかかわらず、IFRSは超短期、1カ月や3カ月単位でものを見ることを迫られる。3カ月後にこの会社を売ったらいくらになるか、といった会計では製造業の経営はやれない。モノづくりの単体にとってダメな基準を、連結だからいいと使うのもおかしい、と。
──企業売買に適した会計基準なのですね。
企業売買ゲームに適している。企業をコモディティと見て、売ったり買ったりする人たちにとって都合のいい情報が盛られる。欧州の会計基準として使われているが、ドイツ、フランスといったモノづくりの国には合わない。英国には合うかもしれないが。
──それだけ、M&A(企業の合併・買収)に適している……。
経営者は稼ぎが乏しくなると、とかくM&Aで窮地を切り抜けようとする。ほかの会社の利益を自分の会社に付け替える手法だ。たとえば、今後3カ月の利益が少ない見込みなら、稼いでいる他社を合併して利益をカサ上げする会計で格好をつける。この持ち分プーリング法が禁止されたら、今度はパーシャス法という買収方法を使うようになった。