IFRSはまったくモノづくりに合わない--『IFRSはこうなる』を書いた田中 弘氏(神奈川大学経済学部教授)に聞く

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これは財産持ち、特に不動産保有の会社を買収して使う。たとえば10億円の土地持ちなら、合併のときは1億円と評価する。自分の会社では当座使えない土地として、時価評価を極力抑える。差し引いた9億円は「のれん」として計上しておく。そして、次の期に土地を売り、のれん9億円を利益として出す。M&A合戦が盛んといわれているが、多くはその会社の事業が欲しいわけではない。次の期に切り売りするネタを確保しているのだ。その分け前を投資家もずっともらってきた。

IFRSでは、資産は売却時価で、負債は即時清算価額でバランスシートに載せる。そうすれば、確かに「この会社の正味資産の売却時価」はわかる。あとは、株価ボードを見て、その会社の時価総額を計算する。普通はその3割増しが買収金額になるが、それとの比較で「お買い得」かどうかが瞬時にわかる。それを日本企業についてもやりたいのだ。

──その尺度は、現在の米国の会計基準でも使えるのでは。

欧州や日本の会社での適用例は少ない。オバマ大統領はこのところモノづくりと輸出立国を言いだした。今まで進めてきた金融立国なら、IFRSを使う余地があるかもしれないが、モノづくりで産業を育成するとなると、ますます合わない。オバマ大統領が再選したら、米国でのIFRSの導入はさらに遠のくのではないか。

──米国は海外の会社が使うのはオーケーとしています。

米国の会社については禁止している。日本の証券市場の場合は、国内企業、外国企業を問わず受け入れている。日本は早期適用という形で任意適用を認めているので、現在もIFRS採用国にカウントされてはいるが、米国はIFRSを使っていない国に分類される。現在使っていない国は今後も使わない見込みが強いのが世界の趨勢だ。

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