4年間「不登校ゼロ」!校長が大切にした4つのポイントや実践に学ぶ「安心して通える学校づくり」 就学時健診に着目した「科学的アプローチ」も

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不登校への対応に尽力することになったのも、この時期だ。しかし、今思い返すと反省もあるという。

「当時は、まず保健室登校を1週間、次はクラスで朝1時間だけ過ごすなど、スモールステップで登校支援を進めていました。でも、それは本人の背景や気持ちを十分に考えず、学校側が一方的に提案するやり方です。結果として生徒のエネルギーは枯渇し、長期欠席になってしまった子も。子どもたちに申し訳ないことをしてしまったと思っています」(板倉氏)

「まるで通級指導教室」、校長室を子どもたちに開放

こうしたさまざまな経験や思いが、のちの校長としての実践へつながっていく。教育委員会指導主事や中学校の教頭職などを経て、校長として赴任した熊谷市立小学校では、複雑な家庭環境にあるなど対応が難しいケースもある中、1人ひとりの子どもを大切にする学校経営に注力した。その結果、在任中の4年間、“新規の不登校はゼロ”だった。

板倉氏が同校で取り組んだ不登校対策のポイントは4つ。保護者の理解も得たうえで、子どもたちが「信頼できる人と学べる」「安心できる場所で学べる」「自分が楽しめる学習内容を自分で決められる」「登校や下校のタイミングは自分で決められる」ことを尊重した。

その象徴となる場の1つが、校長室だった。板倉氏は、校長室に知育玩具などを並べて常時開放し、教室で過ごすのがつらい子、学校を休みがちな子など、すべての子どもたちが自由に安心して過ごせる環境を整えた。この場を訪問したことがあるという元同僚の三富氏は、「校長室がまるで通級指導教室のようだった」と話す。

前任校では校長室に知育玩具を置き(左)、すべての子どもたちに開放(右)

不登校の定義には当てはまらないものの、登校を渋り始める子どもは3人いたが、「午前中なら行けそう」「視線が気になるから、カーテンでスペースを仕切ってほしい」など個々の思いにできるだけ応え、認知特性に応じた支援も行いながら見守った。「そろそろ教室に戻ろうか」とは決して言わなかった。

そのうち2人はそれぞれのタイミングで再び毎日登校するようになった。もう1人は板倉氏の在任中に教室復帰に至らなかったが、後日、離任式の際にその子が手紙を手渡してくれたという。そこには「ありがとうございました きょうしつに いけるようになりました」と綴られていた。

「この子の中では、『進級したら教室に行く』と決めていたのかもしれません。登校を渋る背景は本当にケース・バイ・ケースですが、共通の支援としては『本人の意思を尊重すること』がコアになると思います」(板倉氏)

生徒指導のカギは、「指導」ではなく「励まし」

子どもが安心して過ごせる環境をつくるには、教員の関わり方も重要になる。

あるとき同校で、高学年の児童が板倉氏の頭髪を揶揄してきたことがあった。多くの校長は「人の身体的特徴をからかうのはよくない」と諭すだろう。しかし板倉氏は「じゃあ君の髪、分けてくれよ」とユーモアで返した。数日後、その児童が校長室に姿を現した。しばらく黙々と学習した後、ぽつりと「実は、将来が心配なんだよね」と打ち明けてくれたという。

「その子はきっと、私を『今まで出会った教師と違う』と感じてくれたのでしょう。パズルに例えるなら、子どもの満たされない1ピースをいかに見つけてそっと置いてあげることができるかどうか。そこが不登校に限らず、生徒指導のカギになると考えています。そのためには、子どもが『指導されている』ではなく『励まされている』と感じられるような関わりが大切だと思います」(板倉氏)

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