「ノスタルジア」がポピュリズムの原動力になる理由 「失われた栄光」を求める感情が世界を動かすメカニズム

ノスタルジアはポピュリスト政治家にとって、有権者の「喪失感」や「不満」に触れるための効果的なツールとなる(写真:sarymsakov/PIXTA)
「アメリカを再び偉大な国に(Make America Great Again)」、「かつての栄光を取り戻そう」。ノスタルジアは、単なる個人の感傷にとどまらない。現代社会においては、政治を動かす強力な原動力となり、ポピュリズム運動の根幹を形成している。新刊『ノスタルジアは世界を滅ぼすのか:ある危険な感情の歴史』の著者アグネス・アーノルド=フォースターは、ノスタルジアがどのように政治に利用され、人々の選択を左右するのかを深く掘り下げている。近年、世界中で見られるポピュリスト政治の台頭は、この感情とどのように密接に関わっているのか。本書から抜粋してお届けする。
ポピュリストと「過去の栄光」という物語
ドナルド・トランプがアメリカ大統領に当選した2016年の選挙戦は、ノスタルジアに満ちていた。
彼のスローガン「アメリカを再び偉大な国に」は、今日の不確実で信頼できない世界に対する暗黙の批判と、過去のアメリカへの憧憬を込めていた。
このスローガンは具体性を欠いていたため、さまざまな感情を受け入れる余地があり、多くの有権者の心をつかむことに成功した。
ブレグジット(EU離脱)もまた、ノスタルジアが影響を与えた政治的出来事の一つとして広く分析されている。
国内外の評論家は、ブレグジットを「イギリスの過去へのノスタルジア」だと診断し、かつての大英帝国が持っていた富と世界的な影響力への憧れが、離脱という選択を後押ししたと指摘している。
EU首席交渉官だったミシェル・バルニエでさえ、ブレグジットを「過去へのノスタルジア」と非難した。
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