「ノスタルジア」がポピュリズムの原動力になる理由 「失われた栄光」を求める感情が世界を動かすメカニズム

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多くのジャーナリストや評論家は、現代の政治におけるノスタルジアの流行を、国家や社会の「衰退の兆候」だと捉えている。

彼らは、自信のある国は未来志向であり、ノスタルジアに囚われることはないと主張する。

しかし、私はこの見方に異を唱えたい。

ノスタルジアは、現代生活の条件であり、何百年も前から形を変えつつ存在してきた。特に、19世紀以降、産業化や植民地主義、移民、世界戦争といった社会の激変期に、人々はノスタルジアを抱いてきた。

ノスタルジアを「病気」や「知的欠如」の兆候として軽蔑するのではなく、その「警報装置」としての役割を理解すべきだ。

ノスタルジアが公共や政治の議論に出てきたとき、私たちは「何が愛惜されているのか」「誰がそれを懐かしんでいるのか」を問い直す必要がある。

ノスタルジアは、必ずしも停滞や退行を意味するわけではない。社会理論家のスヴェトラーナ・ボイムは、ノスタルジアを「復興的(restorative)」と「反省的(reflective)」の2種類に分類した。

前者は過去を完全に再現しようとする静的なノスタルジアであり、後者は過去を批判的に見つめ、未来の変革の力に変えようとする動的なノスタルジアである。

ノスタルジアとどう向き合うべきか

ノスタルジアは、ポピュリスト政治家が有権者を動員するための強力な武器となる一方、市民が現代社会の不満を表明するための「共通言語」にもなりうる。

私たちは、ノスタルジアを単なる感情として消費するだけでなく、それがどのような政治的・文化的文脈で利用されているのかを深く理解する必要がある。

ノスタルジアを「病気」だと診断し、それを抱く人々を軽蔑するのではなく、その感情が示す「現在の欠如」を読み解き、より良い未来を築くためのヒントとして活用すること。

これこそが、ノスタルジアの政治と向き合うための、最も重要な姿勢ではないだろうか。

アグネス・アーノルド=フォースター 歴史学者

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Agnes Arnold-Forster

ロンドン大学キングス・カレッジで博士号を取得。エディンバラ大学、マギル大学、UCL、ロンドン大学キングス・カレッジ、ロンドン大学クイーン・メアリー校感情史研究センターでも勤務。がんと手術に関する2冊の学術書の著者であり、学術誌、医学誌、主要誌に幅広く執筆している。また、BBCラジオやテレビに出演し、テレビドラマやドキュメンタリーのコンサルタントを務め、科学博物館、ウェルカム図書館、王立看護協会と緊密に協力している。ロンドン在住。

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