「私がここで生まれていてもおかしくなかった…」ユニクロ柳井康治氏を動かした《世界最大の難民キャンプ》の現実

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私は2017年から約2年間、国際NGOの現地駐在としてロヒンギャ難民支援に携わり、その後もジャーナリズムの視点で情勢をフォローしているが、前向きな要素はひとつもなかった。しかし今年5月、難民キャンプで初めて、かすかな希望を感じる光景を目撃した。

ファーストリテがUNHCRに資金提供する形で、難民キャンプにある「縫製センター」で2022年11月から実施している縫製スキル訓練である。「難民の女性たちがミャンマー帰還後に生計を立てる技術を身につける」ための自立支援プロジェクトとして、3年間で1000人を訓練する計画という。

なし崩しの定住につながるとして、キャンプでのビジネスや就労、職業訓練を規制するバングラデシュ当局との粘り強い折衝の末に実現した画期的なプログラムといえる。

縫製センターがまいた小さな希望の種

縫製センターに一歩入ると、整理整頓された作業場で約70人の女性たちがミシン仕事や裁断作業に取り組んでいた。製造しているのは布製の生理用品とサニタリーショーツ(下着)のセット。営利目的の工場ではなく、あくまでスキル訓練なので、製品は市場に流通することなくキャンプ内で使用される。女性たちには賃金ではなく、認められた範囲の「有償ボランティア」手当が支給される。

女性たちに話を聞くと、「難民キャンプでは水汲みや食料をもらう以外にすることがなかったが、縫製技術を習うようになって毎日楽しい」「ミャンマーから逃れる途中で夫を亡くし、生きがいを失っていた。縫製訓練を受けるのは私の人生で最も幸せな出来事。将来ミャンマーに帰ったら自分の縫製店を開きたい」と明るい答えが返ってきた。

ロヒンギャ 難民キャンプ
縫製センターで作業に取り組む女性たち(筆者撮影)

柳井氏は縫製センターを訪ねた時のことを、「女性たちが生き生きと作業しているのが印象的でした。この支援が彼女たちの自立に少しでも役に立つのだとすれば、これほど誇らしいことはないと思いました」と振り返る。

開発途上国や難民キャンプでは、生理用品を入手できない「生理の貧困」が問題になっており、生理用下着の製造・配付は「女性たちが直面する課題解決にもつながる。生活を楽しめる環境ではないにせよ、『服の力』で人々に寄り添い、クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)の向上を図るという私たちが目指す理想が、ひとつの形になっているように感じました」。

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