〈戦後80年〉当事者ではないからこそ…"アウシュヴィッツ唯一の日本人ガイド"が語る記憶の継承 「『平和は大事だ』で終わらせない」

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――博物館の来訪者には、どのような変化が起きてほしいと思いますか。

ここに来てお金を払ってくれる方々に対し、心の中では感謝しているのですが、だからといって「よく来てくれた、平和は大事だ」で終わらせたくないので、(問題提起として)結構厳しいことを言います。

それぞれの人生に何かしらの影響を与えて、将来何かを選択するときに、その選択の条件として今日の経験を使ってもらったら一番いいと思っています。来ていただいたからには、この経験が将来の選択に何か役立つのが一番大切だと思いますね。

次世代への伝え方は変わっていく

――改めて、戦後80年の話に戻らせて下さい。中谷さんご自身も特殊な立ち位置でホロコーストを伝えられてきたと思いますが、これから次世代へと戦争の記憶を継承していくときに、ご自身の経験を含め、語り方はどのように変わってくると考えますか。

日本の歴史でも、広島や長崎の被爆者の方々がいなくなると、今度は当事者ではない人たちの伝え方は変わってくるはずです。それはアウシュヴィッツも同じで、当事者と、他地域から来た私のような当事者ではない人がいる。感情移入の仕方が変わるので、目的は同じでも、説明もアプローチの仕方も変わるはずです。

昨今の世界情勢について中谷氏は、「決してよい方向には向かっていない」と感じている(記者撮影)

経験者の話がなければ私達も存在しないけど、経験者のように話せないから、経験者の残した言葉や文献を私達が伝えることになります。例えば、被爆者は自分の経験を通じて原子力爆弾の恐ろしさを伝え、聞いている人は「起こしてはいけない」と直接的に思うわけです。それを次世代は被爆者の経験を聞いて伝える。そういった意味では、原爆の恐ろしさを自ら語っても相手には伝わらない。

でも感情移入をしないので、今度は逆に、なぜ今この原爆が世界にこれだけあるのか、どうして原爆が落とされたのか、といった問題点を感情を入れずに追及できると思います。同じことを起こさないためにどうしたらいいかを考えるのは次世代なのですから。

東洋経済オンライン有料版では、以下の特集もご覧いただけます。
80年目の戦争経済総決算
1931年9月の満州事変から1941年12月の太平洋戦争開戦、占領期にかけた経済動向を改めて振り返る。
欧州動乱史
2つの世界大戦とその後の東西冷戦、ソ連の崩壊からEUの成立まで。歴史を知れば、新たな未来が見えてくる(全11回)。
茶山 瞭 東洋経済 記者

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ちゃやま りょう / Ryo Chayama

1990年生まれ、大阪府高槻市出身。京都大学文学部を卒業後、読売新聞東京本社に入社。岐阜支局や経済部に在籍し、 司法や調査報道のほか、民間企業や中央官庁を担当した。 2024年に東洋経済に移り、通信、SIer、データセンター業界を取材。メディア、都市、AIといった領域にも関心がある。趣味は、読書、散歩、旅行。学生時代は、理論社会学や哲学・思想を学んだ。

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