〈戦後80年〉当事者ではないからこそ…"アウシュヴィッツ唯一の日本人ガイド"が語る記憶の継承 「『平和は大事だ』で終わらせない」
――最近アウシュヴィッツには、どのくらいの日本人が訪れているのでしょうか。
コロナ前は年間で日本人だけで3.5万人ほど来ていましたが、昨年が8900人ぐらいだったので、数は戻ってきてはいないですね。ただ、この博物館の今年の(全体の)見学者自体はコロナ前かそれ以上で、もう戻ってきています。
――近年、ヨーロッパではホロコーストの教育がますます重要になっているそうですね。
ヨーロッパの国は高齢化、少子化で一国ではやっていけなくなり、ユーロ通貨を統合したわけです。グローバル化に備えたといいますか、シェンゲン条約で国境線を開いたころから、こういった歴史を教育の柱に置き始めています。21世紀に入ってからはとくにそうです。
日本の経営者や人事関係者が来訪する理由
――一方、最近では日本企業から「人権」を学ぶために博物館に見学にやって来る人が目立っている、とも話されていました。
経営者も、人事課の人も来ています。いま企業では、人権が大きなテーマだと内輪話で知っていますし、経営者も自分で学ばないといけなくなっている。そうしないと、もう一発で社長を追われたりするわけですからね。
人権というのは、アウシュヴィッツの反省からやってきているわけです。道徳とか倫理といったものを真面目にやらずに軽視していると、酷いときにはアウシュヴィッツのような出来事が起きるということです。
――経営者はどういったことを期待して足を運ぶのだと思いますか。
外国企業の株主も増える中で、歴史をわかっていないと企業の代表としてやっていけないわけですよね。(ホロコーストの歴史を知る)外国企業の方が普通に「民主主義の危機」といった話をできるのに、(日本人は)こういった話をすると、だいたい戸惑った顔をするわけですね。
日本人経営者は全員、とは言いませんけれど、仕事一辺倒、売上一辺倒でやってきたので、教育がブランクになっていて(人権問題などを)感覚的に捉えられず、不安もあって来るのではないでしょうか。この部分は、日本の教育は時間がないと言って、学ぶべき、感じるべき場所がなかったのだと思います。
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