〈戦後80年〉当事者ではないからこそ…"アウシュヴィッツ唯一の日本人ガイド"が語る記憶の継承 「『平和は大事だ』で終わらせない」

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――ガイドをする際は、どのような点を意識されていますか。

博物館の目的は、追悼の場所を残すのが1つ、もう1つが(ホロコーストを)二度と起こさないという教訓の場所です。この目的はみんな共通で、そこに行くアプローチはけっこう自由です。

われわれは歴史を伝える目的に沿ってやっていて、自分の気持ちをメッセージとして出す立場ではない。ただ、どうしたらこういったことを繰り返さないのか、と問題提起をしないといけない。それは「こうするべきだ」と僕が言うのではなくて、皆さん自身がそれぞれの立場で考えるための問題提起ですよね。

感情移入しないからこそ見えること

――当事者ではなく、日本人という立場だからこそ果たせる役割は何だと考えますか。

正直に言って、これは私達の土俵、歴史ではないので、本当に僕が案内していいのかっていう疑問点は最初からあったし、今でもあります。

「死の工場」とも呼ばれたアウシュヴィッツの入り口の門には、「働けば自由になれる」との皮肉な標語が記されている(記者撮影)

一方で、この歴史から学べることはけっこうある。政治的タブーが打ち破られて世界中の研究者が調べることができましたし、ヨーロッパの歴史、ユダヤ人の負わされた歴史から、人類の歴史、人の本質のようなところ(テーマ)に移っていける。ただそれで終わらせず、今度は私達の社会をどうやって作っていくのかという材料にしてほしい、というのが胸の内の最終目的です。

ヨーロッパの人には申し訳ないけれども、この歴史を伝えさせてくれという気持ちが強いですね。この舞台を貸してもらい、自分のために勉強させてもらって、なおかつ日本人に伝えて役に立てば、というスタンスです。

――この地域で背負っている複雑な歴史がない日本人だからこそ、少し引いた目でホロコーストを見ることができる部分もあるのではないでしょうか。

感情移入しなくて済むので、そのぶんは見やすいです。当事者ではないので、本当に彼らが経験した痛みはわからない一方で、感情移入しないからこそ、その(問題の)メカニズムが見やすい。

それを、われわれが感情移入してしまう自分たちの社会の問題に置き換えて対比をしてみる。そうすると、今まで見えなかったことが見えてきて、こう解決しようじゃないか、これはよくないのではないか、と見えてくると思うんです。

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