Adoはなぜ海外を目指し、海外で聴かれているのか《国内アーティストのグローバル戦略のいま》

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もうひとつ、ボーカロイド(以下、ボカロ)の海外人気もある。ボカロそのものが、Ado自身のキャリアにとって切っても切り離せないものだ。

Adoの音楽活動は、「歌い手」から始まった。歌い手とは、この場合音声合成ソフト「ボーカロイド」を使って作られたボカロ曲を専門に歌う歌手のことである。

当初ボカロ曲は、初音ミクのようなバーチャルな存在が歌うためのものだった。ボカロ曲の多くも、きわめて速いテンポ、早口言葉のような歌詞など、生身の人間が歌うには難しすぎると思われていた。だがボカロ曲をカバーして見事に歌いこなす人たちが現れた。それが歌い手である。Adoもそのひとりだった。

いま述べたような経緯があるので、歌い手も顔出しをしないケースが多い。Adoが歌手としてメジャーデビューしても顔出しをせず、ライブでもシルエットのみなのは、ボカロ文化に対するリスペクトの念からである。

ボカロ文化は動画共有サービス「ニコニコ動画」などを中心に栄えたものだが、現在の音楽シーンに多大な影響を及ぼしている。かつて米津玄師やYOASOBIのAyaseがボカロ曲をつくって発表する「ボカロP」だったことは有名だ。YOASOBIの音楽などにはボカロ的な要素がいまでもかなり感じられる。

そしてネットの世界で発展したボカロ音楽は、海外でも人気だ。Adoが曲をカバーしたこともあるボカロPのきくおは、アメリカなどで人気。海外各地でのライブ、ツアーもおこなっている。

メジャーデビュー後のAdoは楽曲の幅を広げているが、ボカロ曲もよく歌っている。「うっせぇわ」「踊」「唱」などはボカロPが制作に携わった楽曲だ。さまざまなトーンの声を自由自在に使い分け、どんな複雑な構成の楽曲でも乱れることのないAdoの歌唱の原点は、やはりボカロにあると言っていいだろう。

今後どのようなビジョンを思い描くのかに期待

結局Adoは、このように他の日本のアーティストに比べて海外で受け入れられやすい素地が整っていた。むろんそれを生かして余りあるだけの歌唱力があってのことだが、いずれにしても、海外に出るべくして出て行ったアーティストに思える。

アニソンやボカロの路線に終始してしまうようだと再考の余地があるかもしれないが、現実に有効な突破口であるのは間違いない。今回のランキング1位のニュースは、そのことを証明しているように思う。そしてAdoが今後どのような海外活動のビジョンを思い描いているのか、興味は尽きない。

Adoのベストアドバム
7月30日には『Adoのベストアドバム』のアナログレコードが完全生産限定でリリースされる(画像:ユニバーサル ミュージック)
太田 省一 社会学者、文筆家

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おおた しょういち / Shoichi Ota

東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本社会の関係が研究および著述のメインテーマ。現在は社会学およびメディア論の視点からテレビ番組の歴史、お笑い、アイドル、音楽番組、ドラマなどについて執筆活動を続ける。

著書に『刑事ドラマ名作講義』(星海社新書)、『「笑っていいとも!」とその時代』(集英社新書)、『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『水谷豊論』『平成テレビジョン・スタディーズ』(いずれも青土社)、『テレビ社会ニッポン』(せりか書房)、『中居正広という生き方』『木村拓哉という生き方』(いずれも青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩書房)など。

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