日本の実質賃金が上がらないのはなぜ? ピケティも絶賛の「緊縮資本主義」著者が暴く、経済学者とエリートの「危ない正体」

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「脱政治化」こそ、本書を貫く中心命題である。

マッテイによれば、「脱政治化」は、

①国家が経済に介入しないことであり、端的に言えば、労働者を市場原理の支配下に置くこと
②「『自立的な』経済体制の確立とその保守によって、民主監視による経済的決定から逃れること」
③「経済理論を『客観的』かつ『中立的』なもの」とすること、要するに、階級対立のような政治的な要素を変数から除外した経済モデルを構築すること

の3つの意味を含んでいる。

この順番を逆にして言い換えれば、③客観的で中立的な科学としての経済理論を根拠に、②民主的過程から独立して経済政策を決定する体制を確立することで、①国家を無力化し、労働者を保護することができなくなるようにするということである。

この「脱政治化」において特に重要な役割を果たすのは、経済学者とテクノクラートである。

経済学者は経済理論を提供する。そして、テクノクラートはその経済理論を信奉し、民主的過程から独立した体制において政策を決定する。緊縮には、経済学者とテクノクラートの結託が不可欠なのである。

20世紀資本主義史を「緊縮」で読み解く

以上のような理論をもとに、マッテイは、史料の緻密な検証を重ねつつ、20世紀以降の資本主義の歴史を「緊縮」を軸として新たに書き換えていく。物語の舞台となるのは、当時ヨーロッパ随一の資本主義先進国であったイギリスと、マッテイの祖国イタリアである。

第1次世界大戦は、国家が経済を統制し、資本や労働力を動員する総力戦であったが、これが意外な副産物を生じさせた。経済システムは国家の介入によって改造できるのであり、資本主義は逆らえない自然の摂理ではないということが知れ渡ったのである。

このため、戦後、資本家階級の支配や市場原理に抗する社会主義運動や協同組合活動が活発化した。市場が労働者を支配する資本主義に代わる新たな経済システムの胎動が始まった。

それを叩き潰したのが、1920年代の財政・金融・産業の緊縮である。たとえば、イギリスでは、1920年から、金融引き締め、逆進課税、民営化、労働者の直接行動の規制等により、1922年までに名目賃金は3分の1にまで低下した。

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