IMFの計算式を読み解いてわかった"不都合な真実"、トランプ関税の悪影響は市場予想より甚大になるかもしれない

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以上で示したモデルでは、アメリカ国内での販売価格を関税賦課前と不変に保つように、日本企業が行動すると仮定した。ただ実際には、別の行動を採ることも考えられる。

とくにアメリカにおける競争力が強い品目については、同国への輸出価格を不変に保つことも選択肢に入ろう。それによってアメリカ国内での販売数量が大きな影響を受けないのであれば、こうした強気の戦略を採る可能性もある。

また、生産拠点をアメリカに移転することも想定される。これこそがトランプ大統領の望むことであり、日本製鉄によるUSスチールの買収などによってすでに一部が実現されている。日本企業はこのようなさまざまな対応を求められることになる。

輸出量が不変でもGDPが引き下げられる理由

以上の議論について、次のような疑問を抱く方がいるかもしれない。

この議論は、日本企業がアメリカでの販売価格を関税前と不変に保つように行動することを前提にしている。したがって、輸出の数量は変わらない。数量が変わらなければ、実質輸出も変わらず、実質GDPも変わらないのではないか、と考えられるかもしれない。にもかかわらず、上の議論は実質GDPが減少すると結論づけている――と。

しかし、これまでの議論は誤りではない。経済の実態面で言えば、関税を賦課された産業(例えば自動車産業)は従来より売り上げが減少するため、付加価値が減少する。その結果、従来どおりの賃金を支払えなくなるかもしれない。これは経済の実体的な変化だ。

つまり、仮に対米輸出量(例えば自動車輸出台数)を不変に保てるとしても、価格の引き下げによって実体的な経済活動が影響を受けるのである。以上のことをGDP統計の用語で説明すれば、次のようになる。

関税が賦課された産業では、付加価値の減少に伴い、利潤や賃金が減少する。これによって直接的に減少するのは、実質GDPではなく、実質GDI(国内総所得)だ。

しかし、実質GDIが減少すると、それが最終財に対する需要を減少させ、結果的に実質GDPが減少するという調整が働く。このような過程によって、結局のところ、実質GDPも実質GDIの減少と同じだけ減少すると考えられるのである。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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