「中国文学=三国志」と結びつける“日本人への憂慮” 中国では東野圭吾や宮部みゆきが人気! 日本人は『三国志』の城堡から脱出してみては?

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

例外もある。近年、日本の書店で中国のSF作家・劉慈欣(りゅうじきん)の長編小説『三体』をよく見かける。日本でのシリーズ累計発行部数は100万部を超え、SFジャンルでは「奇跡的」と評されるヒット作だ。

『三体』は中国文学というより、「世界的なSF作品」として受け入れられたのだろう。ただし、この成功が他の中国文学作品に波及しているとは言いがたい。

中国文学には政治的な制約があるものの、優れた現代作品は数多く、作家たちの知恵の深さには感心せずにいられない。

余華
筆者の推し作家である余華の作品。写真は今年3月に出版された中編小説集『偶然事件』(筆者撮影)

私の推し作家は、代表作『活着』で知られる余華(よか)だ。2021年には長編小説『文城 夢幻の町』を発表し、初版50万部、翌日に10万部の重版という注目のスタートを切った。

『文城』は、幻想的な語りを交えながら、戦乱や自然災害、匪賊に翻弄される庶民の姿を多角的に描いている。喜怒哀楽(きどあいらく)が交錯する中で、余華は中国人の人間性の深層に迫ってきた。

ちなみに私が今読んでいる余華の作品は、今年3月に出版された中編小説集『偶然事件』だ。

中国ではネット文学が隆盛している

近年、中国のネット文学は急速に読者を増やし、武侠(ぶきょう)、仙侠(せんきょう「仙人」と「侠」の組み合わせ)、YA(ヤングアダルト)、SF、ファンタジーといった多様なジャンルが人気を集めている。

個性的な若手ネット作家も出てきた。中国のウェブ小説サイト「晋江文学城」から登場した作家Priest(プリースト)は、現代BL(ボーイズラブ)から歴史・ファンタジーまで幅広いジャンルで活躍中だ。

顔歌(がんか)は、英語でも作品を発表し、多文化的な感性とユーモアが光る。胡安焉(こあんえん)は、労働者の視点から社会格差や若者の焦燥感を描いたリアルなエッセイで注目を集めている。2023年には、『我在北京送快递(私は北京で宅配をしている)』、2024年1月、『我比世界晚熟(私は世界より遅咲き)』を出版した。

ネット発の若手作家たちは、SNSや翻訳を通じて世界に発信し、英語圏でも成功を収めるなど、グローバル市場を視野に入れた活動が広がっている。ネットを舞台に、世界に羽ばたく中国の若手作家は枚挙にいとまがない。この新しい潮流が、日本の読者にももっと届いてほしいと願っている。

次ページはこちら
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事