資本主義の欠陥が肥満を生んでいる--ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

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昔ながらの普通の果物や野菜の価格が上昇しても、市場の力で技術革新に拍車がかかり、加工食品の価格は持続的に下落してきたというのは真実だ。しかしここでは、市場の大失敗が見落とされている。

消費者は、学校、図書館、健康キャンペーンを通して一握りの貴重な情報を得る一方、広告による意図的な誤情報に囲まれている。子供たちが直面している状況は特に憂慮すべきだ。多くの国では、質の高い公共テレビには資金がほとんどなく、子供たちは、食品などの業界の広告から資金が出ているチャンネルに取り込まれてしまっている。

生産者には、意図的な誤情報を流すのではなく、自らが引き起こしている環境被害のコストを自己責任とするインセンティブがほとんどない。同様に消費者には、自らの食べ物の選択による医療上のコストを自己責任とするインセンティブがほとんどない。

もし、西洋資本主義の抱える問題が、食品業界が身体に心臓発作をもたらしていることや、金融業界が経済に同等の病をもたらす手助けをしていることだけであったとしても、非常に憂慮すべきことである。しかし、これらの業界を特徴づける規制と政治と経済の病的な動力学はずっと広い範囲に及んでいる。われわれは、はるかに優れた新機関を立ち上げて社会の長期的な利益を守る必要があるのだ。

消費者の主権と父親的温情主義の間のバランスはいつでも微妙である。だが、人々が情報に基づく消費の選択と政治的な決定を下せるように、さまざまな方法で質の高い情報を与えることによって、このバランスを今よりも健全なものに向かわせることは可能である。

Kenneth Rogoff
1953年生まれ。80年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。99年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001~03年までIMFの経済担当顧問兼調査局長を務めた。チェスの天才としても名を馳せる。

(週刊東洋経済2012年3月17日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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