アップルが過去5年で90億ドルの不正アプリや取引を却下。手作業審査で築いた安全な流通環境とは
なぜ、他社のストアが必要なのか。政府はアップルへの手数料が不要という点と、アップルの審査を通らなかったアプリにも流通の機会を与えられるという2点を主な理由として挙げる。
確かにアップルへの手数料は不要だが、サーバーの運用コストなどは生じるので、何らかの手数料は必要だ。
同様の法律を先に通した欧州ではいくつか代替アプリストアが立ち上がり、大手ゲーム会社エピックのストアが12%とアップルをわずかに下回る割合、Setapp Mobileは状況に応じて10〜30%、実質個人経営に近いAltStoreは手数料を取らないという運用になっている。だが、この部分は消費者には見えない部分なので、それほど気にならないだろう。
消費者にとって大きな問題となるのは流通されるアプリだ。他社ストアでの流通を一番したいのは、アップルが公序良俗の観点や不正の可能性から却下したアプリたちだろう。
実際に欧州ではAltStoreが、2月にiPhone初のポルノアプリを流通して世界的なニュースになった。それ以外にも、欧州の他社ストアではエミュレーターと呼ばれる種類のアプリが人気となっている。他の機械の動作を模倣できるソフトで、例えば任天堂のゲーム機のゲームをプレイできたりする。

他社製品の内部コードの違法コピーがなければ、日本でも合法だが、こうしたエミュレーター利用者の多くは、そのうえでプレイするゲームなどを違法に流通していることが多く、著作権違反の温床となっており、アップルは嫌っていた(しかし、そのアップルも2024年4月からは厳しいガイドラインを設けたうえでエミュレーターの流通を許可し始めている)。
これに加えて先に述べた「トロイの木馬」や「おとり商法」のアプリもここに加わってくることだろう。
国は万が一、有害なアプリが配布された場合、その責任はアプリストア事業者やアップル/グーグルなどの指定事業者が負うとしている。
アップルが責任を持って作った安心安全なアプリ流通の仕組みに抜け穴を作っておきながら、万が一、害が出た際には責任も負わせるというのは少し驚きだが、いずれにしてもアプリストア事業側も一定の責任を負う以上、新規参入のアプリストア事業者もある程度の審査は避けられないはずだ。
おそらく欧州も同様で、ほぼ個人経営に近くて審査が緩いAltStoreこそ数百本のアプリを流通しているが、Setapp Mobileは数十本、大手のEpic Games Storeに至っては自社のゲームを中心に十数本のアプリしか流通できておらず、およそ「公正な競争」が「促進」されたようには見えない。
国が威信をかけて半ば強引に進めてきた「スマホ新法」。果たして、どれほど競争を促進するのか、それによって国民の安心安全はどう変わるのかは、今後、政府による市場介入をどう判断するかを見極めるうえでも注視していきたい。
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