アップルが過去5年で90億ドルの不正アプリや取引を却下。手作業審査で築いた安全な流通環境とは

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17年前のiPhone日本上陸時から始まったこの手作業審査は、当時のIT業界では異例だった。2008年当時、すでにグーグルなど多くの企業が、自社の利益につながるものの審査はできる限り自動化して多く受け付けて利益を増やすという方針で、それこそが合理的だと誰もが信じていた。

しかし、この手作業審査のおかげで、iPhoneは他のOSとは比べ物にならないほどマルウェア(ウイルスなどの悪意を持ったソフト)の流入が少ない安心・安全なOSとなり、さまざまなセキュリティー企業の調査でも文句のつけようがない明白な差を生み出している。

あれから17年が経ち、IT業界を取り巻く状況はどうなっているかを振り返ると、ソーシャルメディアなどで流れてくるネット広告は有名人の名前などをかたった詐欺まがいの広告を垂れ流し、抗議の声が上がってもなかなか取り下げることができずにいる。

大手EC流通サービスも詐欺行為の温床となり、多くの偽物や粗悪品が流通し、しばしば購買者を不幸にしている。AIによる審査は確かに効率的に最適解を出してくれるが、裏を返せばその分、裏をかきやすい部分もある。

これに対して、あえて利用者の安全を重視して、コストもかかり面倒な「手作業」の審査を選んだアップルは、今でも利用者の安心安全を保っている。もちろん手作業のため最初はアプリの提出から掲載まで数週間かかるといった問題もあったが、App Reviewと呼ばれる審査の体制を整えることで現在では一両日中にレビューを完了させる体制を整えている。

そして2024年には、その体制で提出された777万アプリのうち193万本の掲載を却下した。最も多かったのはiPhoneの動作パフォーマンスに悪影響を及ぼすという理由だが、2番目は法的な問題、3番目は他アプリの模倣などデザイン上の問題。安全上の理由で却下したアプリも11万6105本にのぼった。

App Store
2024年のApp Storeに関する統計。Apple社が透明性データとして用意している資料を筆者が日本語化

審査後も続く不正アプリ監視

ところで777万本を審査し193万本のアプリを却下する姿勢は、アップルによるユーザー保護の氷山の一角でしかない。

いくら厳正なApp Review審査を行っていても、それをすり抜けるアプリもある。

例えばApp Reviewによる審査に合格したあとにのみ有効化される、隠された機能をコードの中に潜ませる「トロイの木馬」型アプリの開発者もいるようだが、アップルはそうした行為を監視しており、2024年には、隠された機能や文書化されていない機能を有しているという理由で4万3000本以上のアプリの登録を取り消したという。

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